補償変分と等価変分の違いを徹底解説!経済学の視点でわかりやすく理解しよう
目次
補償変分と等価変分とは?
経済学の消費者理論では、価格の変化によって消費者がどれくらい損をしたか、あるいは得をしたかを測る方法があります。その代表的な考え方が「補償変分(CV)」と「等価変分(EV)」です。
どちらも、効用(満足度)を基準にして貨幣価値を測ろうという考え方ですが、出発点とゴールの考え方に違いがあります。
それぞれの定義と考え方
補償変分(Compensating Variation, CV)
補償変分は、「価格が変わった後でも元の満足度(効用)を維持するために、政府がどれくらいお金を補償すればよいか」を示します。
たとえば、ある商品の価格が上がって消費者の満足度が下がってしまうとき、元の満足度を保つにはいくらお金を与えればよいかを測るのがCVです。
数式では次のように表されます:
\[ CV = e(p_1, u_0) – e(p_0, u_0) \]ここで、
- \( e(p, u) \):効用 \( u \) を達成するために必要な支出額(支出関数)
- \( p_0 \):価格が変化する前の価格ベクトル
- \( p_1 \):価格が変化した後の価格ベクトル
- \( u_0 \):価格変化前の効用水準
等価変分(Equivalent Variation, EV)
等価変分は、「価格が変わる前に、価格変化によって得られる効用の変化を先取りして、どれくらいお金を取ればその効用を得られないようにできるか」を示します。
つまり、価格が上がる前に、ちょうどその価格上昇と同じだけ不満足になるようにお金を取り上げるにはいくらか、という考え方です。
数式では以下のように表します:
\[ EV = e(p_1, u_1) – e(p_0, u_1) \]ここで、
- \( u_1 \):価格変化後の効用水準
例題:パンとりんごの価格変化
想像してみましょう。ある人が「パン」と「りんご」の2つの商品を消費しています。
- 最初の価格:パン = 100円、りんご = 100円
- 消費者の所得:1000円
- 効用関数: \( U(x, y) = x \cdot y \)(パンの消費量 \( x \)、りんごの消費量 \( y \))
この人は価格が変わる前にパン5個、りんご5個を買っていて、効用は \( U = 25 \) でした。
ここでパンの価格が100円から200円に上がったとします。
このとき:
- 補償変分は、「価格が200円になったあとでも効用25を達成するために、政府がいくら補償すべきか」
- 等価変分は、「価格が上がる前に、価格上昇後と同じ効用にするにはいくら取り上げればよいか」
補償変分と等価変分の金額は、一般に一致しません。なぜなら出発点の効用が違うからです。
図によるイメージの違い
グラフで表すと次のようになります:
- 補償変分:元の無差別曲線に接する新しい予算線の移動分
- 等価変分:新しい無差別曲線に接する元の価格の予算線の移動分
視覚的には、同じように見えても意味が異なります。無差別曲線のどちら側に注目しているかでCVとEVが分かれるのです。
経済学での応用例
補償変分と等価変分は、公共政策の評価や税制の影響分析など、様々な経済分析で使われます。
1. 消費税の影響分析
例えば、消費税が5%から10%に上がるとき、どれくらい国民の満足度が下がるかをCVやEVで測定できます。これは、税制改革がどれくらい「痛い」かを貨幣で評価する方法です。
2. 補助金政策の効果測定
ある商品に補助金を出すとき、その補助金がどれほど効用を押し上げるのかも、CVやEVで見ることができます。
3. 労働市場での政策評価
最低賃金の引き上げによって、労働者の効用がどのように変化したかを測る場面にも応用可能です。雇用の変化にともなう「効用の増減」を貨幣で把握する指標として使われます。
まとめ
- 補償変分(CV)は「元の効用を保つために必要な補償金額」
- 等価変分(EV)は「新しい効用を得られないようにするにはどれくらいのお金を取り上げるか」
- 価格の変化に対して「どれくらい損したか/得したか」を貨幣で測る指標
- 出発点の効用が違うので、数値としてはCVとEVは一致しないことが多い
- 税制、補助金、最低賃金など多様な政策評価に使われる
補償変分と等価変分の考え方は、単なる数式ではなく、経済政策の背後にある「人々の生活の変化」をしっかり捉えるための道具です。高校生のうちからこの考え方に触れておくと、大学での学びが一層深まるでしょう。