なぜ「上に有界な単調増加数列」は必ず収束するのか?徹底解説!
目次
単調増加数列とは何か?
数列 \( \{a_n\} \) が単調増加であるとは、次の条件を満たすことをいいます:
\[ a_1 \leq a_2 \leq a_3 \leq \cdots \leq a_n \leq a_{n+1} \leq \cdots \]
つまり、後の項が前の項以上になるような数列です。「増加」とは言っても、必ずしも「大きくなる」必要はなく、同じ値が続いても構いません。
上に有界とはどういう意味か?
数列 \( \{a_n\} \) が上に有界であるとは、ある実数 \( M \) が存在して、
\[ a_n \leq M \quad \text{(すべての } n \text{ に対して)} \]
を満たすことをいいます。このとき、\( M \) は上限(または上界)と呼ばれます。重要なのは、「最大値」ではなく、あくまで「それ以上にならない値」であるという点です。
定理:「上に有界な単調増加数列は収束する」
この定理は実数の連続性に基づいた非常に重要な結果です。
定理:
数列 \( \{a_n\} \) が単調増加かつ上に有界であれば、極限
\[
\lim_{n \to \infty} a_n
\]
は存在し、実数である。
このとき、極限値は数列の上限に一致します。
証明
証明には実数の上限性質(least upper bound property)を用います。
- まず、数列 \( \{a_n\} \) の全体の集合 \( A = \{a_n \mid n \in \mathbb{N}\} \) を考えます。
- \( A \) は上に有界であるため、実数の性質から、その上限 \( \sup A \) が存在します。
- これを \( L \) とおきます(つまり \( L = \sup \{a_n\} \))。
- 任意の \( \varepsilon > 0 \) に対して、\( L – \varepsilon \) は上限より小さいため、ある項 \( a_N \) が \[ a_N > L – \varepsilon \] を満たします。
- 数列は単調増加なので、\( n \geq N \) なら \( a_n \geq a_N > L – \varepsilon \) です。
- また、上限 \( L \) から \( a_n \leq L \) が成立します。
したがって、すべての \( n \geq N \) に対して、 \[ L – \varepsilon < a_n \leq L \] が成り立ちます。これは、 \[ \lim_{n \to \infty} a_n = L \] を意味します。ゆえに収束することが示されました。
具体例
例1:調和数列の部分列
数列 \( a_n = 1 – \frac{1}{n} \) を考えます。 \[ a_1 = 0,\quad a_2 = 0.5,\quad a_3 \approx 0.666,\quad \cdots \] この数列は単調増加であり、上に有界(例えば \( M = 1 \))です。実際、 \[ \lim_{n \to \infty} a_n = 1 \] が成り立ちます。
例2:階差が小さくなる数列
数列 \( a_n = \sum_{k=1}^{n} \frac{1}{k^2} \) は単調増加(すべての項が正)であり、 \[ \sum_{k=1}^{\infty} \frac{1}{k^2} = \frac{\pi^2}{6} \] に収束するため、上に有界です。したがって、この数列も収束します。
例3:定数列
\( a_n = 3 \)(すべての項が同じ)のような数列は、単調増加でもあり上に有界でもあります。この場合、 \[ \lim_{n \to \infty} a_n = 3 \] で、当然ながら収束します。
補足と注意点
- 単調増加であっても上に有界でなければ収束しません。たとえば \( a_n = n \) は単調増加ですが、発散します。
- この定理の「収束先」が「上限である」という点も重要です。よって、数列の極限を求めたいときに、上限を探すという戦略が有効になります。
- 「単調減少かつ下に有界」な数列も同様に収束します(下限に収束)。
まとめ
本記事では、「上に有界な単調増加数列は収束する」という解析学の基本定理について、定義・証明・具体例・補足を通じて徹底的に解説しました。
この定理は多くの応用問題や解析の基礎に関わっており、しっかり理解することが今後の学習に非常に役立ちます。