高校生のためのイェンセンの不等式|例題と応用で完全理解
目次
イェンセンの不等式とは?
イェンセンの不等式(Jensen’s Inequality)は、凸関数と平均に関する不等式です。確率論や統計学、情報理論など幅広い分野で登場しますが、実は高校数学でも基本的な形で活用できます。
ざっくり言うと、「凸関数の中に平均を入れた値」は「個々の値を凸関数に入れて平均した値」以下になる、ということです。
凸関数とは何か
イェンセンの不等式を理解するためには、まず凸関数(convex function)を理解する必要があります。
関数 \( f(x) \) が凸関数であるとは、任意の2点 \( x_1, x_2 \) と \( 0 \leq t \leq 1 \) に対して次が成り立つことを言います:
\[ f(tx_1 + (1-t)x_2) \leq t f(x_1) + (1-t)f(x_2) \]
直感的には、グラフが「下に曲がっている」ような関数です。たとえば次のような関数が凸関数です:
- 二次関数 \( f(x) = x^2 \)
- 指数関数 \( f(x) = e^x \)
- 対数関数 \( f(x) = -\log x \)(定義域に注意)
イェンセンの不等式の定理
では、いよいよイェンセンの不等式を見てみましょう。
定理(イェンセンの不等式)
関数 \( f \) が凸関数であり、実数 \( x_1, x_2, \ldots, x_n \) に対して重み付き平均を考えるとき、次の不等式が成り立ちます:
\[ f\left( \sum_{i=1}^n w_i x_i \right) \leq \sum_{i=1}^n w_i f(x_i) \]
ただし、重み \( w_i \geq 0 \)、かつ \( \sum_{i=1}^n w_i = 1 \) です。
この不等式は、「平均を先にとってから関数に入れる方が、関数を先に適用してから平均をとるより小さいか等しい」と読み替えられます。
基本例題
例題1:2つの数に対する二次関数
次の不等式をイェンセンの不等式を使って証明せよ:
\[ \left( \frac{x + y}{2} \right)^2 \leq \frac{x^2 + y^2}{2} \]
解説:
関数 \( f(x) = x^2 \) は凸関数です。
よって、イェンセンの不等式を適用すると:
\[ f\left( \frac{x + y}{2} \right) \leq \frac{f(x) + f(y)}{2} \]
すなわち、 \[ \left( \frac{x + y}{2} \right)^2 \leq \frac{x^2 + y^2}{2} \]
証明完了です。
例題2:対数関数と相加相乗平均
次の不等式を示せ: \[ \log\left( \frac{x + y}{2} \right) \geq \frac{\log x + \log y}{2} \] (ただし \( x, y > 0 \))
解説:
関数 \( f(x) = \log x \) は凹関数なので、イェンセンの不等式の逆が成り立ちます:
\[ f\left( \frac{x + y}{2} \right) \geq \frac{f(x) + f(y)}{2} \]
つまりこの不等式はイェンセンの不等式を凹関数に適用したものです。
応用問題
応用1:三角形の内接円とイェンセンの不等式
三角形の内接円の半径 \( r \) は、面積 \( S \) と周の半分 \( s \) を用いて次の式で表されます:
\[ r = \frac{S}{s} \]
このとき、次のような最小値問題にイェンセンの不等式が使われることがあります。
例えば、「三角形の各辺の長さが一定のとき、面積が最大になるのはどんな三角形か?」という問題で、対数関数の凸性や凹性を活用して不等式を導くことができます。
応用2:平均の大小関係
相加平均(AM)と相乗平均(GM)の関係:
\[ \frac{x + y}{2} \geq \sqrt{xy} \]
これは \( f(x) = \log x \) が凹関数であることを使い、イェンセンの不等式の逆を用いることで導けます。
まとめ
イェンセンの不等式は、凸関数と平均に関する非常に基本的でありながら強力な不等式です。高校数学においても、対称性や平均に関する問題、数列や図形の最適化問題などで威力を発揮します。
また、大学数学や統計学、経済学などへ進む際にも必須の概念なので、早いうちから慣れておくことが重要です。
しっかりと定義を押さえ、具体例や応用問題を通して理解を深めましょう。