不等式攻略の鍵:斉次化で見通す条件付き対称不等式の証明法【高校数学】
この記事では、条件付き対称不等式の証明において「全ての項の次数を揃える(斉次化)」ことで、見通しが良くなるという手法について、例題とともに徹底解説します。
目次
- 1. 対称不等式とその条件とは
- 2. 斉次式(ホモジーニアス)とは何か?
- 3. 斉次化が有効な理由
- 4. 例題1:基本的な条件付き対称不等式
- 5. 例題2:応用的な斉次化の活用
- 6. 補足:他の解法との比較
1. 対称不等式とその条件とは
対称不等式とは、変数の入れ替えに対して不等式の形が変わらない不等式のことです。
たとえば、次のような不等式が対称不等式の一例です:
3変数 \( a, b, c > 0 \) に対して、
$$ a^2 + b^2 + c^2 \geq ab + bc + ca $$
これは対称な不等式であり、変数の大小関係に依存しません。
一方、「条件付き対称不等式」とは、次のように変数間に制約(条件)がある不等式を指します:
たとえば、
$$ a + b + c = 1 \text{ のとき、} a^2 + b^2 + c^2 \geq ab + bc + ca $$
2. 斉次式(ホモジーニアス)とは何か?
斉次式(homogeneous expression)とは、すべての項が同じ次数を持っている式のことです。次数とは、各項の変数の指数の和です。
例:
- \( a^3 + b^3 + c^3 \) は3次の斉次式
- \( ab + bc + ca \) は2次の斉次式
- \( a^2 + b \) は斉次式ではない(それぞれ2次と1次)
斉次式にすることを「斉次化」といい、対称不等式の証明で非常に強力な武器となります。
3. 斉次化が有効な理由
条件付き不等式では、制約条件を使って式を斉次化できることがあります。これにより、変数のスケーリング(定数倍)に対して不等式が不変になるので、変数の一つを特定の値(例えば1)に固定して計算を楽にしたり、対称性をより活かした変形が可能になります。
たとえば、制約 \( a + b + c = 1 \) を使ってすべての項を同じ次数に揃えることで、証明が大幅に簡単になります。
4. 例題1:基本的な条件付き対称不等式
問題: \( a, b, c > 0 \) かつ \( a + b + c = 1 \) のとき、以下の不等式を示せ:
$$ a^2 + b^2 + c^2 \geq ab + bc + ca $$
証明:
左辺と右辺はどちらも2次式なので、すでに斉次です。ただし制約を使って変形を行うとさらに見通しが良くなります。
恒等式:
$$ a^2 + b^2 + c^2 – ab – bc – ca = \frac{1}{2}[(a – b)^2 + (b – c)^2 + (c – a)^2] \geq 0 $$
よって不等式は成立。
このように、斉次式であると平方完成や対称な変形が可能になるため、証明が容易になります。
5. 例題2:応用的な斉次化の活用
問題: \( a, b, c > 0 \) かつ \( abc = 1 \) のとき、以下を示せ:
$$ a + b + c \geq ab + bc + ca $$
この不等式は斉次ではありません(左辺は1次、右辺は2次)ので、まず斉次化を考えます。
制約条件 \( abc = 1 \) を使って、変数の置き換えを行います。
たとえば、
$$ a = \frac{x}{y},\quad b = \frac{y}{z},\quad c = \frac{z}{x} $$
このとき、
$$ abc = \frac{x}{y} \cdot \frac{y}{z} \cdot \frac{z}{x} = 1 $$
よってこの置き換えは妥当です。
置き換え後の左辺:
$$ a + b + c = \frac{x}{y} + \frac{y}{z} + \frac{z}{x} $$
右辺:
$$ ab + bc + ca = \frac{x}{y} \cdot \frac{y}{z} + \frac{y}{z} \cdot \frac{z}{x} + \frac{z}{x} \cdot \frac{x}{y} = \frac{x}{z} + \frac{y}{x} + \frac{z}{y} $$
この不等式:
$$ \frac{x}{y} + \frac{y}{z} + \frac{z}{x} \geq \frac{x}{z} + \frac{y}{x} + \frac{z}{y} $$
は、Chebyshevの不等式や 相加相乗平均の不等式(AM ≥ GM) を駆使して証明することが可能です。
6. 補足:他の解法との比較
条件付き対称不等式の証明には、他にも以下のような手法があります:
- ラグランジュの未定乗数法(Lagrange Multiplier)
- シュワルツの不等式(Cauchy-Schwarz Inequality)
- 相加相乗平均不等式(AM-GM)
- 混合式・加減法
しかし、斉次化を通じて対称性を最大限に活用すると、代数的にすっきりした証明が可能になるため、非常に有用です。
まとめ
条件付き対称不等式を斉次化することで、証明に必要な操作が明確になり、複雑に見える不等式もシンプルに扱えることが多くなります。特に数学オリンピックなどの高度な問題では、斉次化をうまく活用できるかどうかが鍵となります。
高校数学の枠を超えて役立つこのテクニック、ぜひ自分の武器として身につけてください。