部分ベクトル空間の基底を完全に理解:基底の延長とは何か?
目次
はじめに:ベクトル空間と部分ベクトル空間
線形代数において、ベクトル空間はスカラー倍や加法に関して閉じた集合です。 よく知られた例としては、実数体 \\(\mathbb{R}\\) 上の \\(\mathbb{R}^n\\) があります。
あるベクトル空間 \\(V\\) の部分集合 \\(W\\) が再びベクトル空間の公理を満たすとき、\\(W\\) は \\(V\\) の部分ベクトル空間と呼ばれます。 たとえば、\\(\mathbb{R}^3\\) の中で、ある平面上のベクトルの集合は部分空間の一例です。
基底とは何か?
ベクトル空間の基底とは、その空間のすべてのベクトルを一意に線形結合で表すことができる最小限のベクトル集合のことです。
より正確には、\\(V\\) の基底とは以下の2つの性質を満たすベクトル集合 \\(\{v_1, v_2, \dots, v_k\}\\) のことです:
- 線形独立である(どのベクトルも他のベクトルの線形結合では表せない)
- \\(V\\) のすべてのベクトルはこの集合の線形結合で表現できる(生成する)
例:\\(\mathbb{R}^2\\) の標準基底は \\(\{(1,0), (0,1)\}\\) です。
基底の延長とは?
基底の延長とは、部分空間 \\(W\\) の基底 \\(B_W\\) を全体の空間 \\(V\\) の基底 \\(B_V\\) に拡張することです。 すなわち、\\(B_W \subset B_V\\) となり、\\(B_V\\) は \\(V\\) の基底となるように新たなベクトルを加える操作です。
この操作は、次元を理解する上でも重要で、特に次元の加法定理と密接に関係しています。
基底の延長に関する定理とその証明
基底の延長に関して、以下の定理が知られています:
定理(基底の延長定理):
有限次元ベクトル空間 \\(V\\) の部分空間 \\(W\\) の基底 \\(B_W\\) は、\\(V\\) の基底 \\(B_V\\) に拡張可能である。
証明:
- \\(B_W = \{w_1, w_2, \dots, w_k\}\\) を取る(\\(W\\) の基底)
- \\(V\\) の任意の基底 \\(B_V\\) は \\(n\\) 次元で、\\(k \leq n\\)
- \\(V\\) の中で \\(B_W\\) に含まれないベクトルを取り、線形独立性が保たれるように追加していく
- この操作を繰り返すと、最終的に \\(V\\) 全体を生成する基底ができる
よって、\\(B_W\\) を含むような \\(V\\) の基底が存在する。
具体例:部分空間の基底から全体空間の基底を作る
例を通して考えてみましょう。
例1:\\(\mathbb{R}^3\\) における部分空間 \\(W = \text{span}\{(1,0,0), (0,1,0)\}\\)
このとき、\\(W\\) の基底は \\(\{(1,0,0), (0,1,0)\}\\)。\\(\mathbb{R}^3\\) の次元は3なので、1つベクトルを追加すればよい。
たとえば、\\((0,0,1)\\) を加えると、3つは線形独立であり、\\(\mathbb{R}^3\\) の基底となる: \[ B_V = \{(1,0,0), (0,1,0), (0,0,1)\} \]
例2:\\(\mathbb{R}^4\\) における部分空間 \\(W = \text{span}\{(1,1,0,0), (0,1,1,0)\}\\)
この基底は2次元なので、\\(\mathbb{R}^4\\) の基底に拡張するにはあと2つ必要。 \\((0,0,0,1)\\) や \\((1,0,0,1)\\) を追加して、線形独立性を確認すればよい。
応用と重要性
このような基底の延長は、以下のような分野で重要です:
- 行列の階数と次元の理解
- 線形写像の核と像の次元関係(次元定理)
- 線形独立性を保ちながら空間を拡張するアルゴリズム
- Gram-Schmidt直交化法の基礎理論
特に数学的証明や計算の際に「線形独立な集合を保ったまま空間を拡張する」という考え方は、さまざまな局面で登場します。
まとめ
本記事では、部分ベクトル空間の基底を全体の空間の基底に延長する方法について、定義・定理・証明・具体例を交えて詳しく解説しました。 基底の延長は線形代数の基礎でありながら、応用範囲の広い重要な概念です。 線形独立性と生成という2つの概念を意識しながら、空間の構造を理解していくうえで不可欠なツールといえるでしょう。