上三角行列・下三角行列の定義・性質・具体例まで網羅解説
目次
上三角行列・下三角行列とは
上三角行列と下三角行列は、線形代数において特に重要な構造を持つ行列の一種です。
それぞれ、行列の要素の中で特定の位置にある成分がすべて 0 になるという性質を持っています。
上三角行列の定義
\( n \times n \) の正方行列 \( A = (a_{ij}) \) が上三角行列であるとは、行番号 \( i \) が列番号 \( j \) より大きい位置の成分がすべて 0 であること、すなわち:
\[ a_{ij} = 0 \quad (\text{ただし } i > j) \]
下三角行列の定義
同様に、行列 \( A = (a_{ij}) \) が下三角行列であるとは、列番号 \( j \) が行番号 \( i \) より大きい位置の成分がすべて 0 であること、すなわち:
\[ a_{ij} = 0 \quad (\text{ただし } i < j) \]
具体例
上三角行列の例
3×3 の上三角行列の例は以下の通りです:
\[ \begin{bmatrix} 1 & 4 & 7 \\ 0 & 5 & 2 \\ 0 & 0 & 9 \end{bmatrix} \]
下三角行列の例
同様に、下三角行列の例は以下のようになります:
\[ \begin{bmatrix} 3 & 0 & 0 \\ 2 & 6 & 0 \\ 1 & 5 & 8 \end{bmatrix} \]
対角行列との関係
すべての非対角成分が 0 の行列(つまり \( a_{ij} = 0 \) for \( i \ne j \))は、対角行列と呼ばれ、これは上三角行列かつ下三角行列です。
\[ \begin{bmatrix} 2 & 0 & 0 \\ 0 & 3 & 0 \\ 0 & 0 & 4 \end{bmatrix} \]
上三角行列・下三角行列の性質
加法に関する性質
- 同じ型(三角形)の行列同士の和は、同じ型の三角行列になる。
- 例えば、上三角行列 \( A \) と \( B \) の和 \( A + B \) も上三角行列です。
乗法に関する性質
- 上三角行列同士の積は上三角行列になる。
- 下三角行列同士の積もまた下三角行列になります。
証明(上三角行列の積): \[ C = AB, \quad c_{ij} = \sum_{k=1}^n a_{ik} b_{kj} \] もし \( i > j \) のとき、\( a_{ik} = 0 \) または \( b_{kj} = 0 \) であるため、\( c_{ij} = 0 \)。
行列式の性質
- 上三角または下三角行列の行列式は、対角成分の積に等しい。
\[ \det(A) = \prod_{i=1}^n a_{ii} \]
逆行列に関する性質
- 上三角行列または下三角行列が正則(非特異)であれば、その逆行列も同じ型の三角行列になります。
応用と関連概念
LU分解
任意の正方行列 \( A \) は、下三角行列 \( L \) と上三角行列 \( U \) の積として表現できることがあります(LU分解):
\[ A = LU \]
この分解は、連立一次方程式の解法や行列の数値計算において広く活用されます。
ガウスの消去法
行基本変形を通じて、行列を上三角行列に変形することで、連立方程式の解を簡単に得ることができます。
数値解析との関係
三角行列の性質を利用すると、計算量を大幅に減らし、効率的なアルゴリズムの設計が可能になります。
まとめ
- 上三角行列とは、下三角成分(\( i > j \))がすべて0の行列。
- 下三角行列とは、上三角成分(\( i < j \))がすべて0の行列。
- 加法・乗法・行列式などの多くの演算で構造が保存される。
- LU分解や数値計算において不可欠な役割を果たす。
上三角行列・下三角行列の理解は、線形代数だけでなく、統計・物理・工学など多くの応用分野の数学的基盤となります。