線形同型写像とは?ベクトル空間の構造を完全に写す写像を徹底解説
目次
線形写像の復習
線形写像とは、ベクトル空間 \( V \) から \( W \) への写像 \( f: V \to W \) で、以下の2つの性質を満たすものです:
- 加法の保存:\( f(\boldsymbol{x} + \boldsymbol{y}) = f(\boldsymbol{x}) + f(\boldsymbol{y}) \)
- スカラー倍の保存:\( f(k\boldsymbol{x}) = kf(\boldsymbol{x}) \)
これらの性質により、線形写像はベクトル空間の構造を保ったまま他の空間へ写像することができます。
線形同型写像の定義と性質
線形同型写像(線形同型)とは、線形写像の中でも特に以下の条件を満たすものを指します:
- 単射(1対1):異なる元が異なる像に写る
- 全射(上への写像):すべての元が像として現れる
つまり、線形同型写像はベクトル空間 \( V \) から \( W \) への双方向の線形対応を確立します。このとき、逆写像 \( f^{-1} \) も線形写像となります。
線形同型写像が存在する場合、ベクトル空間 \( V \) と \( W \) は同型であるといい、記号で \( V \cong W \) または \( V \simeq W \) と表します。
同型なベクトル空間の特徴
同型なベクトル空間は、以下のような特徴を持ちます:
- 次元の一致:有限次元ベクトル空間 \( U \) と \( V \) が同型であるためには、次元が等しい必要があります。すなわち、\( \dim U = \dim V \) ならば \( U \cong V \) です。
- 同値関係:同型性は以下の性質を持つ同値関係です:
- 反射律:\( V \cong V \)
- 対称律:\( V \cong W \) ならば \( W \cong V \)
- 推移律:\( V \cong W \) かつ \( W \cong U \) ならば \( V \cong U \)
特に、任意の有限次元ベクトル空間は、同じ次元の \( \mathbb{R}^n \) と同型であるため、計算や理論の上で \( \mathbb{R}^n \) とみなすことができます。
具体例と応用
線形同型写像の具体例をいくつか紹介します:
- 恒等写像:任意のベクトル空間 \( V \) において、恒等写像 \( \text{id}_V: V \to V \) は線形同型写像です。
- 転置写像:行列空間 \( M_{m \times n} \) から \( M_{n \times m} \) への転置写像 \( T(A) = A^T \) は線形同型写像です。
- 基底の対応:ベクトル空間 \( U \) と \( V \) の基底がそれぞれ \( \{\boldsymbol{u}_1, \dots, \boldsymbol{u}_n\} \) と \( \{\boldsymbol{v}_1, \dots, \boldsymbol{v}_n\} \) であるとき、写像 \( f\left(\sum_{j=1}^n k_j \boldsymbol{u}_j\right) = \sum_{j=1}^n k_j \boldsymbol{v}_j \) は線形同型写像です。
これらの例から、線形同型写像がベクトル空間の構造を完全に保ったまま他の空間へ写像することが理解できます。