CAPMだけじゃない!株主資本コストの計算方法を高校生にもわかりやすく徹底解説
目次
株主資本コストとは?
株主資本コスト(Cost of Equity)とは、企業が株主から資金を調達する際に、株主が期待するリターンのことです。つまり、企業が株主に「どれくらいの見返りを与えなければならないか」を表す指標です。
投資家にとっては「この企業に投資することで、リスクを取る価値があるのか?」という判断基準になります。企業側にとっては、株主資本コストが高ければ高いほど、資本コストが重くなり、投資判断に慎重になります。
CAPMとは?(簡単な復習)
もっとも有名な株主資本コストの計算方法がCAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産評価モデル)です。CAPMの数式は以下のようになります。
\[ r_e = r_f + \beta (r_m – r_f) \]- \( r_e \):株主資本コスト
- \( r_f \):無リスク利子率(例:国債利回り)
- \( \beta \):企業のリスク係数
- \( r_m \):市場全体の期待収益率
CAPMは理論的に美しく、ファイナンス理論の中でもよく使われます。しかし、いくつかの欠点があります。
- 市場全体の期待収益率(\( r_m \))を正確に見積もるのが難しい
- \( \beta \)の推定が安定しない場合がある
- 過去のデータに依存しやすい
そのため、CAPM以外の方法を使うケースも多いのです。
CAPM以外の株主資本コストの計算方法
1. 配当割引モデル(Dividend Discount Model: DDM)
配当を重視したモデルです。次のような式で計算されます:
\[ r_e = \frac{D_1}{P_0} + g \]- \( D_1 \):来年の予想配当
- \( P_0 \):現在の株価
- \( g \):配当の成長率
配当が安定している企業に向いていますが、成長企業や配当を出していない企業には使いにくいという欠点があります。
2. イールドスプレッドモデル(Earnings Yield + Risk Premium)
株式の収益利回り(益利回り)に、リスクプレミアムを加える方法です。 \[ r_e = \frac{EPS}{P_0} + リスクプレミアム \]
- \( EPS \):1株あたり利益
- \( P_0 \):現在の株価
特にアナリストが企業のEPSを予想している場合などに有効です。
3. Fama-French 3ファクターモデル
CAPMに2つの要素(企業規模と簿価対時価比率)を加えたモデルです。 \[ r_e = r_f + \beta_1 (r_m – r_f) + \beta_2 \cdot SMB + \beta_3 \cdot HML \]
- \( SMB \):小型株効果(Small Minus Big)
- \( HML \):簿価対時価効果(High Minus Low)
より現実に即した精緻なモデルですが、データの取得や理解にはやや高度な知識が必要です。
例題で理解しよう
例題1:DDMを使った計算
ある企業の株価が1,000円で、来年の配当予想が40円、配当の成長率が3%とします。このときの株主資本コストは?
\[ r_e = \frac{40}{1000} + 0.03 = 0.07 = 7\% \]したがって、この企業の株主資本コストは7%です。
例題2:益利回りモデル
EPSが150円、株価が1,200円、リスクプレミアムを2%とした場合: \[ r_e = \frac{150}{1200} + 0.02 = 0.125 = 12.5\% \]
益利回りモデルではこの企業の資本コストは12.5%になります。
応用:実際の企業評価での使い方
株主資本コストは、企業価値を計算する際の割引率として使われます。たとえば、将来のキャッシュフロー(FCF)を現在価値に割り引くときに使います。
\[ 企業価値 = \sum_{t=1}^{\infty} \frac{FCF_t}{(1 + r_e)^t} \]このとき、\( r_e \)を低く見積もると企業価値が高くなりすぎてしまい、投資判断を誤る原因となります。逆に高く見積もりすぎると、せっかくの良い投資機会を逃してしまうかもしれません。
したがって、複数の方法で算出し、その中で妥当な数値を選ぶことが重要です。
まとめ
- 株主資本コストは企業にとって重要な資本コストのひとつ
- CAPMは基本だが、他の方法(DDM、益利回りモデル、Fama-Frenchなど)もある
- 例題で実際に計算してみることで理解が深まる
- 企業評価や投資判断に直接関わるため、正確な推定が重要
高校生の皆さんも、これらのモデルを通して「企業の価値ってどう決まるの?」という疑問に、経済学的な視点からアプローチできるようになります。