「随伴行列」を解説!エルミート転置・共役転置の意味と性質

「随伴行列」を解説!エルミート転置・共役転置の意味と性質

目次

随伴行列の定義

随伴行列(adjoint matrix)とは、複素数成分を持つ行列において重要な概念で、元の行列の「複素共役をとってから転置した行列」を指します。これは「エルミート転置」または「共役転置」とも呼ばれます。

数学的には、複素成分を持つ行列 \( A \) に対して、随伴行列 \( A^\dagger \) は以下で定義されます:

\[ A^\dagger = \overline{A}^T \]

ここで、\( \overline{A} \) は \( A \) の各要素の複素共役、\( ^T \) は転置を意味します。

記法と呼び方

随伴行列にはいくつかの呼び方がありますが、すべて同じものを指しています。

  • 随伴行列(Adjoint matrix)
  • 共役転置(Conjugate transpose)
  • エルミート転置(Hermitian transpose)

記号としては、次のいずれかが一般的です:

  • \( A^\dagger \)(ダガー記号)
  • \( A^* \)(複素共役を含意)

具体例

行列 \( A \) を以下のように定義します:

\[ A = \begin{bmatrix} 1 + i & 2 \\ 3i & -1 \end{bmatrix} \]

この行列の随伴行列 \( A^\dagger \) を求めます。まず複素共役を取ります:

\[ \overline{A} = \begin{bmatrix} 1 – i & 2 \\ -3i & -1 \end{bmatrix} \]

次に転置をとると:

\[ A^\dagger = \overline{A}^T = \begin{bmatrix} 1 – i & -3i \\ 2 & -1 \end{bmatrix} \]

随伴行列の性質

随伴行列は以下のような性質を持ちます。

  1. 線形性: \( (A + B)^\dagger = A^\dagger + B^\dagger \)
  2. スカラーの共役: \( (\lambda A)^\dagger = \overline{\lambda} A^\dagger \)
  3. 随伴の随伴: \( (A^\dagger)^\dagger = A \)
  4. 積に関する逆順の随伴: \( (AB)^\dagger = B^\dagger A^\dagger \)

随伴行列と特別な行列

以下のような行列と随伴行列の関係は非常に重要です。

エルミート行列

\( A = A^\dagger \) を満たす行列はエルミート行列(自己随伴行列)と呼ばれます。エルミート行列は固有値が実数であるという性質があります。

ユニタリ行列

\( A^\dagger A = AA^\dagger = I \) を満たす行列はユニタリ行列と呼ばれます。ユニタリ行列はノルムを保つ変換であり、量子力学などで重要です。

正規行列

\( A^\dagger A = A A^\dagger \) を満たす行列は正規行列と呼ばれ、エルミート行列やユニタリ行列もこのクラスに含まれます。

応用例

随伴行列は、主に以下の分野で頻出します。

  • 量子力学: 観測量はエルミート演算子として表現される。
  • 統計的推定: ユニタリ変換に基づく回転不変性の利用。
  • 信号処理: 複素フーリエ変換の性質解析において重要。
  • 数値線形代数: 行列分解(特に特異値分解やQR分解)において基本的な役割。

まとめ

随伴行列は、複素数を扱う線形代数の文脈で非常に重要な役割を果たします。特に物理や工学、数学の応用分野において、エルミート性やユニタリ性といった概念と密接に関係しています。

記法に慣れ、具体的な操作に強くなることで、行列の性質や構造を深く理解することができます。ぜひ例題を手で解いて、理解を深めてください。

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