連立一次方程式に解がある条件と行列での証明

連立一次方程式に解がある条件と行列での証明

目次

はじめに

連立一次方程式は、高校から大学初級の数学において最も基本的かつ重要なトピックの一つです。本記事では、連立一次方程式が解をもつための条件について、行列の視点から厳密に、かつ丁寧に解説します。特に、ランクを用いた定式化とその証明を中心に、豊富な例とともに理解を深めていきます。

行列による連立一次方程式の表現

\( n \)個の未知数 \( x_1, x_2, \ldots, x_n \) を含む \( m \)本の一次方程式の系は、次のように行列表記できます:

\[ A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} \]

  • \( A \):\( m \times n \) 行列(係数行列)
  • \( \boldsymbol{x} \):\( n \times 1 \) 列ベクトル(未知数)
  • \( \boldsymbol{b} \):\( m \times 1 \) 列ベクトル(定数項)

この表現により、行列の操作(基本変形、ランクなど)を通して解の存在や一意性を調べることが可能になります。

解の存在条件(理論)

連立一次方程式 \( A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} \) が少なくとも一つの解をもつ(つまり解が存在する)ための必要十分条件は、以下の通りです:

\[ \mathrm{rank}(A) = \mathrm{rank}([A|\boldsymbol{b}]) \]

ここで:

  • \( \mathrm{rank}(A) \):係数行列のランク
  • \( [A|\boldsymbol{b}] \):係数行列と定数ベクトルを並べた拡大係数行列

また、もし解が存在し、かつランクが未知数の数と等しい場合(すなわち \( \mathrm{rank}(A) = n \))、その解は一意になります。

条件の証明

以下では、解の存在条件 \[ \mathrm{rank}(A) = \mathrm{rank}([A|\boldsymbol{b}]) \] の必要十分性を証明します。

(必要性)

方程式 \( A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} \) に解 \( \boldsymbol{x} \) が存在すると仮定します。つまり、 \[ A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} \] が成り立ちます。これは、ベクトル \( \boldsymbol{b} \) が係数行列 \( A \) の列ベクトルの線形結合であることを意味します。よって、 \[ \boldsymbol{b} \in \mathrm{Col}(A) \] すなわち、拡大係数行列 \( [A|\boldsymbol{b}] \) の列ベクトルの張る空間は \( A \) の列ベクトルと同じ空間になります。したがって、 \[ \mathrm{rank}(A) = \mathrm{rank}([A|\boldsymbol{b}]) \] が成立します。

(十分性)

\[ \mathrm{rank}(A) = \mathrm{rank}([A|\boldsymbol{b}]) \] と仮定します。これは、\( \boldsymbol{b} \) が \( A \) の列ベクトルの線形結合であること、すなわち \( \boldsymbol{b} \in \mathrm{Col}(A) \) であることを意味します。よって、ある \( \boldsymbol{x} \in \mathbb{R}^n \) が存在して、 \[ A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} \] を満たします。したがって、連立方程式には解が存在します。

具体例で理解する

例1:解をもつ場合

次の連立方程式を考えます:

\[ \begin{cases} x + y = 2 \\ 2x + 2y = 4 \end{cases} \]

係数行列と拡大係数行列はそれぞれ:

\[ A = \begin{bmatrix} 1 & 1 \\ 2 & 2 \end{bmatrix}, \quad [A|\boldsymbol{b}] = \begin{bmatrix} 1 & 1 & 2 \\ 2 & 2 & 4 \end{bmatrix} \]

行基本変形より:

\[ \mathrm{rank}(A) = \mathrm{rank}([A|\boldsymbol{b}]) = 1 \Rightarrow \text{解が存在} \]

この場合、解は無限に存在します(自由変数あり)。

例2:解をもたない場合

\[ \begin{cases} x + y = 2 \\ 2x + 2y = 5 \end{cases} \]

\[ A = \begin{bmatrix} 1 & 1 \\ 2 & 2 \end{bmatrix}, \quad [A|\boldsymbol{b}] = \begin{bmatrix} 1 & 1 & 2 \\ 2 & 2 & 5 \end{bmatrix} \]

このとき、行基本変形を行うと

\[ \mathrm{rank}(A) = 1 < \mathrm{rank}([A|\boldsymbol{b}]) = 2 \Rightarrow \text{解は存在しない} \]

まとめ

  • 連立一次方程式は行列形式 \( A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} \) に書ける。
  • この系が解をもつ条件は \[ \mathrm{rank}(A) = \mathrm{rank}([A|\boldsymbol{b}]) \] である。
  • ランクが未知数の数と等しい場合、解は一意である。
  • 行基本変形によってランクを求め、解の存在や一意性を調べることができる。

本記事を通して、連立一次方程式の解の存在条件を行列論的に理解できたはずです。よびのり系の解説に親しんでいる方にも役立つよう丁寧に構成しました。

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