高校生向け ランダムウォークの基本と応用|数学例題でわかりやすく解説
ランダムウォークとは? 基本の理解
ランダムウォークとは、ある点から始めてランダムに「進む」または「戻る」を繰り返す数学的モデルです。特に高校数学での確率の分野でよく扱われ、物理学や経済学などの応用も広いです。
最も基本的なランダムウォークは、1次元の整数上での動きで、1ステップごとに「+1」か「-1」のどちらかに進みます。たとえば、点\(X_0 = 0\)からスタートし、次の位置\(X_n\)は以下のように定義されます。
\[ X_n = X_0 + \sum_{i=1}^n Y_i \] ここで、各\(Y_i\)は独立な確率変数で、以下のように定義されます。 \[ P(Y_i = +1) = p, \quad P(Y_i = -1) = 1-p \] 特に公平なコインを使う場合は、\(p = \frac{1}{2}\)です。このモデルの特徴は、「未来の動きが過去の動きに依存しない」という点にあります。期待値と分散の計算
ランダムウォークの重要な性質の1つに、期待値(平均)と分散の計算があります。これは運動の平均的な挙動やばらつきを理解するのに役立ちます。
まず1ステップの期待値を求めます。
\[ E[Y_i] = (+1) \times p + (-1) \times (1-p) = 2p – 1 \]続いて、\(n\)ステップ後の位置の期待値は以下です。
\[ E[X_n] = E\left[\sum_{i=1}^n Y_i\right] = \sum_{i=1}^n E[Y_i] = n(2p – 1) \]次に分散を計算します。1ステップの分散は、
\[ \mathrm{Var}(Y_i) = E[Y_i^2] – (E[Y_i])^2 \] \[ E[Y_i^2] = (+1)^2 \times p + (-1)^2 \times (1-p) = p + (1-p) = 1 \] \[ \Rightarrow \mathrm{Var}(Y_i) = 1 – (2p – 1)^2 = 4p(1-p) \]独立性より、\(n\)ステップの分散は
\[ \mathrm{Var}(X_n) = \sum_{i=1}^n \mathrm{Var}(Y_i) = 4np(1-p) \]特に公平コインの場合(\(p=\frac{1}{2}\))は、期待値は0、分散は\(n\)に比例します。
シンプルな例題で確認
次の例題で理解を深めましょう。
例題: 公平なコインを投げて表が出たら1歩進み、裏が出たら1歩戻るランダムウォークで、10回コインを投げたときの位置の期待値と分散を求めよ。
解答:
- 期待値は、\(E[X_{10}] = 10 \times (2 \times \frac{1}{2} -1) = 10 \times 0 = 0\)
- 分散は、\(\mathrm{Var}(X_{10}) = 4 \times 10 \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} = 10\)
つまり、平均的には初期地点の0にとどまるが、ばらつきは大きく10回の試行で平均の距離の標準偏差は\(\sqrt{10}\)歩になります。
ランダムウォークの応用例
ランダムウォークは単なる数学的遊びではなく、様々な分野に応用されます。
- 物理学: ブラウン運動のモデル化。微小粒子のランダムな動きの理解に用いられます。
- 経済学: 株価変動のモデル。価格の動きはランダムウォークに近いとされることがあります。
- 情報科学: アルゴリズムの設計やマルコフ連鎖モンテカルロ法など、確率的手法の基礎。
応用問題として、以下のような課題もあります。
問題: 確率\(p\)で右に1歩、確率\(1-p\)で左に1歩進むランダムウォークにおいて、\(n\)ステップ後に0に戻る確率を計算せよ。
この問題は確率論の基本的な定理を使うことで、二項分布と組み合わせの計算に帰着します。例えば、\(n\)ステップのうちちょうど\(k\)回右に進むと、
\[ X_n = 2k – n \]であり、\(X_n=0\)となるには\(k = \frac{n}{2}\)である必要があります。ここで\(n\)は偶数でなければなりません。
したがって、
\[ P(X_n = 0) = \binom{n}{\frac{n}{2}} p^{\frac{n}{2}} (1-p)^{\frac{n}{2}} \]となります。
マルコフ過程としてのランダムウォーク
ランダムウォークはマルコフ過程の代表例です。マルコフ過程とは、現在の状態だけが未来の状態の分布に影響し、過去の状態は影響しない性質(マルコフ性)を持つ確率過程です。
ランダムウォークの場合、現在の位置\(X_n\)がわかれば、次の位置\(X_{n+1}\)の確率分布は過去の履歴に依存せず、以下のように表されます。
\[ P(X_{n+1} = x+1 \mid X_n = x) = p, \quad P(X_{n+1} = x-1 \mid X_n = x) = 1-p \]これにより数学的に扱いやすく、多くの応用問題の解析が可能になります。
まとめ
ランダムウォークは確率モデルとして非常に重要で、高校数学でも基礎的な期待値や分散の計算を通じて学べます。基本を押さえれば、物理学や経済学など幅広い分野での応用問題も理解しやすくなります。
今回の内容をまとめると:
- ランダムウォークは1ステップごとにランダムに動く確率過程。
- 期待値は\(n(2p -1)\)、分散は\(4np(1-p)\)で計算可能。
- 公平な場合は期待値が0で、分散は\(n\)に比例。
- 応用は物理、経済、情報科学に及び、マルコフ性を持つ。
ぜひ実際にコインやサイコロで試しながら、ランダムウォークの面白さを体感してみてください。