高校生にもわかる!排出権取引と比較優位のしくみと応用
目次
排出権取引とは?
排出権取引とは、企業や国が温室効果ガス(主に二酸化炭素)を排出する「権利」を市場で売買できるようにした制度です。これは環境政策の一種で、地球温暖化を抑えるための手段として使われています。
たとえば、政府がある国に対して年間100トンまでのCO₂排出を許可したとしましょう。企業Aは技術が進んでいて80トンしか排出しません。一方、企業Bは技術が遅れていて120トン排出する予定です。ここで、企業Aは余った20トン分の排出権を、企業Bに売ることができます。
このように、排出量の削減が得意な企業は排出権を「売って稼ぐ」ことができ、不得意な企業は「買って排出を補う」ことで、経済的な効率を達成します。
比較優位とは?
比較優位(comparative advantage)とは、「自分が他よりも得意かどうか」ではなく、「自分の中で相対的にコストの低いことに特化すべきだ」という経済学の基本原理です。
たとえば、ある人が「数学も英語も得意」だったとしても、数学がより得意で、英語はそこそこ得意な場合、その人は数学に集中し、英語は他人に任せたほうが全体の効率が上がるという考えです。
この概念は貿易にも応用されます。たとえば、国Aは食品と機械の両方を作れるけれど、食品の方が得意。国Bは機械の方が得意。であれば、国Aは食品に特化し、国Bは機械に特化することで、両国がより多くの財を得ることができます。
数学的に言えば、ある財Xと財Yの生産において、
\[ \text{国Aの比較優位} = \frac{\text{国AがXを1単位作るのに必要なYの犠牲量}}{\text{国BがXを1単位作るのに必要なYの犠牲量}} \]この比が小さい国がXに比較優位を持つと言えます。
排出権取引と比較優位のつながり
排出権取引の世界でも「比較優位」が応用できます。具体的には、排出削減の「機会費用」が低い企業(削減が得意な企業)が排出権を「売る」側になり、機会費用が高い企業(削減が苦手な企業)が「買う」側になります。
これは国際貿易における財の交換と似ており、各主体が自分の比較優位に基づいて行動することで、全体として環境目標を達成しながら経済効率も高めることができるのです。
基本的な例題
例題1:
企業Aと企業Bがいます。企業Aは1トンのCO₂を削減するのに1万円かかります。企業Bは1トンあたり3万円かかります。政府は両企業に10トンずつ削減を命じましたが、排出権取引を認めるとします。どうなるでしょうか?
解説:
企業Aの方が削減コストが低いため、Aは多めに削減し、Bに排出権を売ることで利益を得ます。たとえば、Aが15トン削減し、Bは5トン削減+Aから5トン分の排出権を購入すれば、全体で20トンの削減という目標を達成しつつ、両社のコスト合計が最小になります。
応用的な例題とその解説
例題2:
ある国には3つの企業X, Y, Zがあります。各社の1トンあたりのCO₂削減コストは以下の通りです。
- X社:2万円
- Y社:5万円
- Z社:7万円
政府は全体で30トン削減を命じ、企業ごとに10トンずつの目標を与えましたが、排出権取引を許可しています。どのような取引が最適でしょうか?
解説:
削減コストの低い順に削減を多く担当すべきです。
- X社:全体の削減を多く担当 → 例えば15トン削減
- Y社:少し削減 → 例えば10トン削減
- Z社:ほとんど削減しない → 5トン削減+5トン購入
このように割り当てると、コストの高い企業は排出権を「買う」ことで削減負担を減らし、全体のコストも最小化されます。比較優位の考え方を排出削減コストに当てはめて、得意な企業により多くの負担を任せるのが効率的です。
まとめと今後の視点
排出権取引と比較優位の考え方は、経済学の基本的な理論を環境問題の解決に応用する好例です。高校生にも理解できるように、この2つの概念をつなげて考えることができれば、現実世界の政策をより深く考察できるようになります。
将来的には、炭素税や国際間排出権取引など、さらに高度な制度も登場してくるでしょうが、基本は「比較優位」と「インセンティブによる効率化」です。こうした理論の土台をしっかり理解することが、よりよい社会の設計に役立つのです。