数学オリンピックレベルの不等式に挑戦!高校数学の応用例題を徹底解説
目次
はじめに
数学オリンピックでは、「不等式」の分野が頻出テーマの一つです。特に論理的な思考力と工夫が求められるため、単なる公式の暗記では太刀打ちできません。ここでは、不等式の基本からオリンピックレベルの応用まで、段階的に理解を深めていきます。
不等式の基本とよく使うテクニック
まずは代表的な不等式を確認しましょう。これらは応用問題にも頻出です。
- 相加相乗平均不等式(AM-GM): \( a, b \geq 0 \) のとき、 \[ \frac{a + b}{2} \geq \sqrt{ab} \] 等号成立は \( a = b \) のとき。
- コーシー・シュワルツの不等式: 実数列 \( a_1, \dots, a_n \)、\( b_1, \dots, b_n \) に対して \[ \left( \sum_{i=1}^n a_i b_i \right)^2 \leq \left( \sum_{i=1}^n a_i^2 \right) \left( \sum_{i=1}^n b_i^2 \right) \] 等号成立は \( a_i = \lambda b_i \) のとき(定数 \(\lambda\) が存在)。
- ホルダーの不等式: 高次元でもよく使われますが、本稿では割愛。
応用例題①:相加相乗平均不等式(AM-GM)
例題1: \( a, b, c > 0 \) のとき、次の不等式を証明せよ: \[ \frac{a}{b+c} + \frac{b}{c+a} + \frac{c}{a+b} \geq \frac{3}{2} \]
解説:
この問題は不等式の中でも有名な形で、「ネスビットの不等式」と呼ばれます。証明には以下のようなアプローチが取れます。
- まずは対称性に注目します。
- 次に、以下のように AM-GM を活用します: \[ \frac{a}{b+c} \geq \frac{2a}{2b + 2c + a} \quad \text{など} \]
- しかしこのアプローチはやや複雑になるため、より直接的な証明として次の方法を採ります:
変数変換を使いましょう。例えば \( a + b + c = 1 \) として一般性を失わない(同次式のスケーリング)。すると式は \[ \frac{a}{1 – a} + \frac{b}{1 – b} + \frac{c}{1 – c} \geq \frac{3}{2} \] に帰着し、凸関数 \( f(x) = \frac{x}{1 – x} \) の性質などから証明が進みます。
応用例題②:コーシー・シュワルツの不等式
例題2: 任意の正の実数 \( a, b \) に対して、次の不等式を示せ: \[ (a^2 + b^2)(1 + 1) \geq (a + b)^2 \]
解説:
この不等式はコーシー・シュワルツの基本形を使えばすぐに導けます。
左辺:\( (a^2 + b^2)(1^2 + 1^2) = (a^2 + b^2) \cdot 2 \)
右辺:\( (a \cdot 1 + b \cdot 1)^2 = (a + b)^2 \)
よって、
\[
2(a^2 + b^2) \geq (a + b)^2
\]
これは展開すれば
\[
2a^2 + 2b^2 \geq a^2 + 2ab + b^2 \Rightarrow a^2 – 2ab + b^2 \geq 0 \Rightarrow (a – b)^2 \geq 0
\]
が成立し、証明完了です。
不等式を解くためのテクニック集
- 対称性: 変数の入れ替えに強いパターンに注目する
- スケーリング: 和や積を 1 に正規化してシンプルに
- 置換・代入: \( x = \frac{a}{b+c} \) などの置き換えで簡潔化
- 凸性・凹性: Jensenの不等式でまとめる
- 反例を探す: 成立しない場合の直感を鍛える訓練にも
まとめと今後の勉強法
不等式の応用問題は、単なる計算力だけでなく、観察力や工夫が問われます。今回紹介したような定番不等式やテクニックをしっかり身につけ、初見の問題にも柔軟に対応できるようにしましょう。
次のステップとしては、以下のような勉強法が効果的です:
- 数学オリンピックの過去問を時間を決めて解く
- 友人や講師と解法を議論して視点を増やす
- 証明の途中でも一度立ち止まって全体構造を考える
不等式は奥が深く、美しい論理が詰まっています。着実に実力を伸ばして、どんな問題にも自信を持って立ち向かえるようにしましょう。