高校生のためのニュートンの不等式:基礎から応用まで徹底解説
ニュートンの不等式とは何か?基礎の理解
ニュートンの不等式は、多項式の係数や根の性質に関わる重要な不等式です。 具体的には、多項式の根の対称式である「基本対称式」の間に成り立つ関係を示します。 例えば、3次以上の多項式の根を考えたときに、根の和や積、2つの根の積の和など、基本対称式の間に以下のような不等式が成立します。
多項式の根を \( x_1, x_2, \ldots, x_n \) としたとき、基本対称式とは \[ e_k = \sum_{1 \leq i_1 < i_2 < \cdots < i_k \leq n} x_{i_1} x_{i_2} \cdots x_{i_k} \] で定義されます。
例えば、3変数の場合は、 \[ e_1 = x_1 + x_2 + x_3, \quad e_2 = x_1 x_2 + x_2 x_3 + x_3 x_1, \quad e_3 = x_1 x_2 x_3 \] となります。
ニュートンの不等式は、これら \( e_k \) に対し、 \[ e_k^2 \geq e_{k-1} \cdot e_{k+1} \] が成り立つことを示しています。ただし、根はすべて非負の実数とします。
ニュートンの不等式の具体例と計算方法
まずは3変数の場合で具体例を見てみましょう。根を \( x, y, z \geq 0 \) とします。すると、
- \( e_1 = x + y + z \)
- \( e_2 = xy + yz + zx \)
- \( e_3 = xyz \)
ニュートンの不等式より、以下が成り立ちます:
実際に数値を代入してみましょう。
例えば、\( x=1, y=2, z=3 \) のとき、
- \( e_1 = 1+2+3 = 6 \)
- \( e_2 = 1 \cdot 2 + 2 \cdot 3 + 3 \cdot 1 = 2 + 6 + 3 = 11 \)
- \( e_3 = 1 \cdot 2 \cdot 3 = 6 \)
これを使うと、
よって、
が成立し、ニュートンの不等式が正しいことが確かめられます。
応用問題の解き方ステップバイステップ
ニュートンの不等式を用いる応用問題の典型的な流れを示します。
- 問題文から、非負の数 \( x_i \) の和や積の関係を読み取る。
- 基本対称式 \( e_k \) を定義する。
- ニュートンの不等式の形 \( e_k^2 \geq e_{k-1} e_{k+1} \) を使って式を立てる。
- 不等式を変形し、求めたい量を評価または上限・下限を見つける。
- 必要に応じて、等号成立条件を確認し問題の答えをまとめる。
例題
3つの非負の数 \( a, b, c \) があり、和が 3 であるとする。
\[ a + b + c = 3, \quad a, b, c \geq 0 \]
このとき、
\[ ab + bc + ca \leq ? \]
を求めなさい。
解答例
ここで、
- \( e_1 = a + b + c = 3 \)
- \( e_2 = ab + bc + ca \) を求めたい。
- \( e_3 = abc \geq 0 \)(非負)
ニュートンの不等式の一つ、
\[ e_1^2 \geq 2 e_2 \]
より、
\[ 3^2 \geq 2 e_2 \implies 9 \geq 2 e_2 \implies e_2 \leq \frac{9}{2} = 4.5 \]
よって、\( ab + bc + ca \) の最大値は 4.5 となります。
等号成立の条件は、\( a = b = c \) のときですから、
\( a = b = c = 1 \) のときに最大値 4.5 をとります。
高校数学でのニュートンの不等式の使いどころ
ニュートンの不等式は、多項式の係数の関係を理解する上で非常に役立ちます。特に、次のような場面で使えます:
- 多項式の根が非負の時の根の組み合わせの制約を考える問題
- 不等式証明問題の一部として、多項式の対称式の評価
- 最大値・最小値問題における根の対称式の境界推定
また、ニュートンの不等式は単独でも使えますが、他の不等式(例えば算術・幾何平均不等式、シュワルツの不等式)と組み合わせることでより強力な証明が可能になります。
まとめとよくある質問
まとめ
- ニュートンの不等式は基本対称式の間に成り立つ重要な不等式である。
- 根が非負の多項式の係数や根の和・積に対して有効。
- 実際の問題に応用する際は、対称式を正しく定義し、不等式の形を活用する。
- 等号成立条件を考えることで、解の性質も理解できる。
よくある質問
- Q1: なぜ根が非負でなければいけないの?
- ニュートンの不等式は根が非負のときに成立します。負の値があると不等式が成り立たない場合があるため、非負制約が重要です。
- Q2: 2次以下の多項式でも使える?
- 2次以下の場合は基本対称式が少ないため、ニュートンの不等式は単純な形でしか表現されませんが、3次以上で本領を発揮します。
- Q3: 他の不等式とどう組み合わせるの?
- 算術・幾何平均不等式(AM-GM)などと組み合わせ、より複雑な不等式証明や最大最小問題を解く手法として用いられます。