これでわかる!高校生のための産業均衡入門【経済学の基礎】
このページでは、高校生にもわかりやすいように「産業均衡」という経済学の重要な考え方について、ていねいに解説していきます。
目次
産業均衡とは何か?
「産業均衡」とは、一つの産業全体が安定した状態にあることを意味します。具体的には、企業が利益を最大化しようと行動した結果、どの企業も参入や退出を行わないような状態です。
この状態では、
- すべての企業が利潤ゼロ(経済学でいう「正常利潤」)
- 市場価格が需要と供給を一致させる
- 資源が無駄なく使われている
といった特徴があります。
個別企業と産業の関係
まずは一つの企業の行動を考えてみましょう。企業は利益(売上−費用)を最大にするために、どれだけ生産するかを決めます。市場価格が与えられていると仮定すると、企業は限界費用(1単位追加で生産したときのコスト)と価格が一致する点まで生産します。
つまり、企業の利潤最大化の条件は以下のようになります:
$$ P = MC $$
ここで:
- \( P \):市場価格
- \( MC \):限界費用
企業がたくさん存在する場合、これらの行動の総和が産業の供給曲線をつくります。
また、産業全体としては需要と供給が一致する価格で均衡が決まります:
$$ D(P) = S(P) $$
ここで:
- \( D(P) \):価格 \( P \) における需要量
- \( S(P) \):価格 \( P \) における供給量(産業全体の)
短期と長期の産業均衡
経済学では、「短期」と「長期」で状況が異なります。
短期の均衡
短期では企業の数は変わらないと仮定します。価格は供給と需要で決まりますが、企業が利益を得たり損失を出したりすることがあります。
長期の均衡
長期になると、新しい企業が利益を求めて産業に参入したり、損失を出した企業が退出したりします。この動きが続いた結果、次のような状態に落ち着きます:
- すべての企業が正常利潤(経済的利潤ゼロ)
- 価格は平均費用と等しくなる
$$ P = AC = MC $$
ここで:
- \( AC \):平均費用(総費用 ÷ 生産量)
数式で見る産業均衡
仮に次のような関数を考えましょう:
- 需要関数: \( D(P) = 100 – 2P \)
- 個別企業の費用関数: \( C(q) = 10q + q^2 \)
限界費用は:
$$ MC = \frac{dC}{dq} = 10 + 2q $$
企業は価格 \( P \) に対して:
$$ P = 10 + 2q \Rightarrow q = \frac{P – 10}{2} $$
企業が \( N \) 社あると仮定すると、供給量は:
$$ S(P) = N \cdot \frac{P – 10}{2} $$
産業の均衡は:
$$ D(P) = S(P) \Rightarrow 100 – 2P = N \cdot \frac{P – 10}{2} $$
これを解くことで、価格 \( P \) と企業数 \( N \) の関係がわかります。さらに、長期の条件 \( P = AC \) を使って \( N \) の均衡も求められます。
現実社会での応用例
たとえば、コンビニ業界を考えてみましょう。人気のある地域に店舗が増えると、最初は利益が得られます。しかし、同じような店がどんどん増えると、価格競争が起こり、利益は減っていきます。
最終的に、どの店舗も「ギリギリ損しない」程度の利益しか得られず、新規出店も減る。この状態が、まさに「産業均衡」です。
また、航空業界やタクシー業界、農業市場など、多くの分野でこの考え方が使われています。
このように、産業均衡は理論的なだけでなく、現実のビジネスや政策にとっても重要な概念なのです。