べき級数の収束半径:定義・計算方法・具体例まで完全解説
目次
べき級数とは何か
べき級数(power series)とは、以下の形をした無限級数のことを指します:
\[ \sum_{n=0}^{\infty} a_n (x – c)^n \]
ここで、\( a_n \) は係数、\( c \) は中心(展開点)、\( x \) は変数です。この級数は、ある条件を満たす \( x \) の範囲で収束します。
収束半径の定義
べき級数が収束する変数 \( x \) の範囲には限りがあります。その範囲を決定するのが「収束半径(radius of convergence)」です。級数
\[ \sum_{n=0}^{\infty} a_n (x – c)^n \]
に対して、ある正の実数 \( R \) が存在し、以下のようになります:
- \( |x – c| < R \) のとき、級数は収束する。
- \( |x – c| > R \) のとき、級数は発散する。
このような \( R \) を収束半径と呼びます。\( R = \infty \) であれば全ての \( x \) に対して収束します。
収束半径の求め方
収束半径を求める一般的な方法には、以下の2つがあります:
1. コーシーの根判定法
\[ R = \frac{1}{\limsup_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|}} \]
ここで \(\limsup\) は上極限です。極限が存在しない場合にも適用できます。
2. 比判定法
もし \(\lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_{n+1}}{a_n} \right|\) が存在するならば、
\[ R = \frac{1}{\lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_{n+1}}{a_n} \right|} \]
が成り立ちます。収束半径の計算にはこの方法がよく使われます。
収束半径の具体例
例1:幾何級数
\[ \sum_{n=0}^{\infty} x^n \]
この級数は \( a_n = 1 \) なので、
\[ R = \frac{1}{\limsup_{n \to \infty} \sqrt[n]{1}} = 1 \]
または比判定法でも
\[ \lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_{n+1}}{a_n} \right| = 1 \Rightarrow R = 1 \]
よって収束半径は \( R = 1 \)。
例2:\( \sum_{n=1}^{\infty} \frac{x^n}{n} \)
\[ a_n = \frac{1}{n} \Rightarrow \sqrt[n]{|a_n|} = \sqrt[n]{\frac{1}{n}} \to 1 \Rightarrow R = \frac{1}{1} = 1 \]
例3:\( \sum_{n=0}^{\infty} n! x^n \)
比判定法を使うと、
\[ \left| \frac{a_{n+1}}{a_n} \right| = \frac{(n+1)!}{n!} = n+1 \to \infty \Rightarrow R = 0 \]
これは \( x = 0 \) の点でしか収束しないことを意味します。
例4:\( \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!} \)
\[ a_n = \frac{1}{n!} \Rightarrow \left| \frac{a_{n+1}}{a_n} \right| = \frac{1}{n+1} \to 0 \Rightarrow R = \infty \]
これは指数関数 \( e^x \) のテイラー展開であり、全ての \( x \) に対して収束します。
収束半径の境界上での挙動
収束半径 \( R \) の境界、すなわち \( |x – c| = R \) の点での挙動は一概には決まりません。以下のように場合分けされます:
- 収束する点もあれば、
- 発散する点もあります。
例:\( \sum_{n=1}^{\infty} \frac{x^n}{n} \)(\( R = 1 \))
- \( x = 1 \) のとき:調和級数 \( \sum \frac{1}{n} \) は発散。
- \( x = -1 \) のとき:交代調和級数 \( \sum \frac{(-1)^n}{n} \) は収束。
このように境界上では点ごとに収束性が異なることに注意が必要です。
まとめ
- べき級数は収束半径 \( R \) によって収束・発散の範囲が決まる。
- 収束半径の計算には根判定法や比判定法が有効。
- 具体例を通じて収束半径の意味を理解することが重要。
- 境界上の挙動には注意が必要で、一概に判断できない。
べき級数の理解は解析学や複素関数論の基礎となります。収束半径の概念をしっかりと身につけておくことで、より高度な数学の学習にもつながります。