【徹底解説】ディリクレの収束判定法
目次
ディリクレの収束判定法とは
ディリクレの収束判定法(Dirichlet’s Test)は、ある種の無限級数が収束するかどうかを判定するための強力な方法の一つです。 特に、項が交互に符号を変えるような級数や、積の形で表される級数に対して有効です。
形式的には、次のように定式化されます。
定理(ディリクレの収束判定法):
実数列 \( \{a_n\} \), \( \{b_n\} \) に対して、以下の条件が成り立つとき、級数 \( \sum_{n=1}^{\infty} a_n b_n \) は収束する:
- \( \{a_n\} \) の部分和 \( A_n = \sum_{k=1}^n a_k \) が有界である(すなわち、ある定数 \( M \) が存在してすべての \( n \) に対して \( |A_n| \leq M \))。
- \( \{b_n\} \) は単調減少列で、極限 \( \lim_{n \to \infty} b_n = 0 \) を満たす。
ディリクレの収束判定法の適用条件
この判定法を使うためには、以下の条件を確認する必要があります:
- 部分和の有界性: \( a_n \) の累積和 \( A_n \) が「発散しない」だけでなく「ある範囲内で振動する」必要があります。
- 減少かつ零に収束する列: \( b_n \) は単調減少かつ \( b_n \to 0 \) でなければなりません。
この条件を満たすならば、個々の項 \( a_n \) が発散する可能性があっても、その「平均化」された効果で全体の級数は収束することが保証されます。
定理の証明(スケッチ)
証明のアイディアは「部分和と差分の積」への分解を用いるものです。アーベル変換を使って次のように書き換えます。
\[ \sum_{n=1}^{N} a_n b_n = A_N b_N – \sum_{n=1}^{N-1} A_n (b_n – b_{n+1}) \]
ここで、\( A_n \) が有界であり、\( b_n \) が単調減少かつ零に収束するので、右辺の各項は収束し、結果として全体の級数が収束することが示されます。
具体例とその解説
例1:交代級数の一般化
\[ \sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^n}{n} \] これは有名な交代調和級数であり、交代級数の収束判定法で収束することが知られていますが、ディリクレの判定法でも同様に扱えます。
- \( a_n = (-1)^n \) → 部分和 \( A_n \) は最大2の範囲で振動するため有界。
- \( b_n = 1/n \) → 単調減少、かつ \( \lim b_n = 0 \)。
したがって、条件を満たすので収束。
例2:三角関数と調和数列の積
\[ \sum_{n=1}^{\infty} \frac{\sin n}{n} \] この級数もディリクレの収束判定法で扱うことができます。
- \( a_n = \sin n \):部分和は有界であることが知られている。
- \( b_n = 1/n \):単調減少かつ0に収束。
よって、この級数は収束します。
例3:逆に条件を満たさないケース
\[ \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n} \] この級数では \( a_n = b_n = 1/n \) とすると、部分和 \( A_n = \sum_{k=1}^n 1/k \) は有界ではないため、ディリクレの判定法は適用できません(実際、発散する)。
他の収束判定法との比較
- 積分判定法: 単調減少かつ正の関数に対して使用される。
- 交代級数の収束判定法: 交互に符号が変わる級数に特化。
- ディリクレの判定法: より一般的で、三角関数など周期的な項と減衰項の積のような級数にも対応可能。
ディリクレの判定法は、交代級数判定法の発展形として理解でき、応用範囲が広いことが特徴です。
まとめ
ディリクレの収束判定法は、級数の収束を判断するうえで非常に有効なツールです。特に、部分和が振動的だが有界な列と、単調減少しゼロに近づく列の積に対して、収束を保証してくれます。
実用上の注意点として、すべての級数に適用できるわけではありませんが、三角関数や交代項を含むような級数を扱う際には、まずディリクレの収束判定法の適用可否を確認することが有効です。