小行列式とは何か?意味・計算・例を完全解説
目次
小行列式とは?定義の確認
小行列式(しょうぎょうれつしき)とは、ある行列から特定の行や列を取り除いてできる部分行列の行列式(determinant)のことを指します。 これは主に行列式の計算方法である「ラプラス展開(余因子展開)」の中で用いられます。
一般に、\( n \times n \) の行列 \( A \) の \( i \) 行 \( j \) 列の成分 \( a_{ij} \) に対応する小行列式は、行列 \( A \) から第 \( i \) 行と第 \( j \) 列を取り除いた \( (n – 1) \times (n – 1) \) の部分行列の行列式を指します。
この小行列式はしばしば \( M_{ij} \) と表され、次のように定義されます。
\[ M_{ij} = \det(A_{ij}) \]
ここで \( A_{ij} \) は、行列 \( A \) から第 \( i \) 行と第 \( j \) 列を取り除いた部分行列です。
小行列式の具体例
次に、\( 3 \times 3 \) の行列を例にとって、小行列式を計算してみましょう。
行列 \( A \) を以下のように定義します。
\[ A = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \\ 7 & 8 & 9 \end{pmatrix} \]
例えば、成分 \( a_{11} = 1 \) に対応する小行列式 \( M_{11} \) を求めるには、1 行目と 1 列目を削除して残った行列の行列式を求めます。
\[ A_{11} = \begin{pmatrix} 5 & 6 \\ 8 & 9 \end{pmatrix} \Rightarrow M_{11} = \det(A_{11}) = 5 \cdot 9 – 6 \cdot 8 = 45 – 48 = -3 \]
同様に、\( M_{23} \)(第2行・第3列を削除した小行列式)は次の通りです:
\[ A_{23} = \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 7 & 8 \end{pmatrix} \Rightarrow M_{23} = \det(A_{23}) = 1 \cdot 8 – 2 \cdot 7 = 8 – 14 = -6 \]
ラプラス展開との関係
小行列式は、ラプラス展開(Laplace expansion)において重要な役割を果たします。
ラプラス展開とは、\( n \times n \) の行列の行列式を、ある1行または1列の要素とその余因子(cofactor)を用いて展開する方法です。
行列 \( A \) の第 \( i \) 行を使って展開する場合、次のように表されます。
\[ \det(A) = \sum_{j=1}^n (-1)^{i+j} a_{ij} M_{ij} \]
ここで、
- \( a_{ij} \):行列の成分
- \( M_{ij} \):対応する小行列式
- \( (-1)^{i+j} \):符号
この展開を「余因子展開」とも呼びます。小行列式は、余因子の定義に含まれるため、計算の基礎となります。
小行列式の応用と意味
小行列式は、単なるテクニカルな計算道具ではありません。線形代数の多くの応用で本質的な役割を果たします。
- 行列式の計算: 上述のラプラス展開による行列式の計算に欠かせません。
- 逆行列の計算: 逆行列の各成分(随伴行列)は小行列式を使って構成されます。 \[ (A^{-1})_{ji} = \frac{(-1)^{i+j} M_{ij}}{\det(A)} \]
- 線形独立性の判定: 小行列式が 0 でない場合、対応するベクトルは線形独立である可能性があります。
- 微分方程式や物理の計算: 特性方程式や固有値の計算などにも関係しています。
まとめ
小行列式は、行列から特定の行と列を削除して得られる部分行列の行列式であり、ラプラス展開や逆行列の計算、線形独立性の確認など、 多くの数学的操作で不可欠な要素です。単なる「計算のための部品」としてではなく、行列全体の性質や構造を把握するうえで、非常に重要な役割を果たしています。
線形代数をしっかり理解したいなら、小行列式の意味と計算をしっかり押さえることが大切です。