基底と次元とは?ベクトル空間の仕組みをやさしく解説
目次
ベクトル空間とは?
ベクトル空間とは、ある体(通常は実数体 \\(\mathbb{R}\\) や複素数体 \\(\mathbb{C}\\))の上で定義される、ベクトルの集合です。この集合は、次の2つの演算を満たします。
- ベクトル同士の加法
- スカラー倍(スカラーとの乗法)
これらの演算が、結合法則や分配法則などの性質(ベクトル空間の公理)を満たすとき、その集合はベクトル空間と呼ばれます。
線形独立とは?
\\( \mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \ldots, \mathbf{v}_n \\) がベクトル空間 \\(V\\) の元であるとき、これらが線形独立であるとは、次の等式
\\[ a_1\mathbf{v}_1 + a_2\mathbf{v}_2 + \cdots + a_n\mathbf{v}_n = \mathbf{0} \\]
を満たすスカラー \\(a_1, \ldots, a_n\\) が、すべて \\(a_i = 0\\) のときだけであることを意味します。
逆に、ゼロベクトルになるような非自明な(すべてゼロでない)係数の組み合わせが存在する場合は、線形従属といいます。
基底の定義
基底とは、次の2つの条件を満たすベクトルの集合です。
- 集合内のベクトルが線形独立であること
- 集合内のベクトルで空間のすべての元が線形結合で表せること(=全体を張っていること)
つまり、ベクトル空間の最小限の構成要素です。この基底を使えば、すべてのベクトルを一意に表現することができます。
次元の定義
ベクトル空間の次元とは、基底を構成するベクトルの数です。例えば、\\(\mathbb{R}^3\\) の標準基底
\\[ \mathbf{e}_1 = (1, 0, 0),\quad \mathbf{e}_2 = (0, 1, 0),\quad \mathbf{e}_3 = (0, 0, 1) \\]
は3つのベクトルからなり、\\(\mathbb{R}^3\\) の次元は3です。
次元は、空間の自由度や方向の数を示す重要な指標です。
具体例で理解しよう
例1:\\(\mathbb{R}^2\\) の標準基底
\\(\mathbb{R}^2\\) では、次のベクトル
\\[ \mathbf{e}_1 = (1, 0),\quad \mathbf{e}_2 = (0, 1) \\]
が基底となります。どんな \\(\mathbb{R}^2\\) のベクトル \\((a, b)\\) も、\\(a\mathbf{e}_1 + b\mathbf{e}_2\\) として表せます。
例2:\\(\mathbb{R}^3\\) の別の基底
以下の3つのベクトルが \\(\mathbb{R}^3\\) の基底になります:
\\[ \mathbf{v}_1 = (1, 1, 0),\quad \mathbf{v}_2 = (0, 1, 1),\quad \mathbf{v}_3 = (1, 0, 1) \\]
これらは線形独立であり、\\(\mathbb{R}^3\\) の任意のベクトルを線形結合で表せるためです。
例3:多項式空間
次数が高々2の多項式全体の集合 \\(P_2\\) は、ベクトル空間です。
\\[ P_2 = \{a + bx + cx^2 \mid a,b,c \in \mathbb{R}\} \\]
このとき、\\(1, x, x^2\\) が基底であり、次元は3です。
例4:行列の空間
2×2行列全体の空間を考えると、
\\[ \begin{bmatrix}1 & 0\\0 & 0\end{bmatrix},\quad \begin{bmatrix}0 & 1\\0 & 0\end{bmatrix},\quad \begin{bmatrix}0 & 0\\1 & 0\end{bmatrix},\quad \begin{bmatrix}0 & 0\\0 & 1\end{bmatrix} \\]
が基底となり、次元は4です。
例5:線形従属の例
\\((1, 2), (2, 4)\\) は線形従属です。なぜなら、
\\[ (2, 4) = 2 \cdot (1, 2) \\]
であり、一方が他方のスカラー倍だからです。このようなベクトルは基底にはなりません。
まとめ
- ベクトル空間は、加法とスカラー倍が定義された集合。
- 線形独立とは、非自明な線形結合でゼロになることがないこと。
- 基底は、線形独立かつ空間全体を張る最小のベクトル集合。
- 次元は、基底の要素数=空間の自由度。
- さまざまなベクトル空間で具体的に確認することが理解のカギ。
線形代数の核心とも言える「基底と次元」は、ベクトルの見方を根本から変える重要な概念です。理解を深めるには、実際に手を動かして基底を探してみることが最も効果的です。