【線形代数】基底の変換行列とは
目次
基底の変換行列とは?
線形代数において、基底の変換行列(または基底変換行列、基底間の変換行列)とは、 あるベクトル空間における2つの異なる基底間で、ベクトルの座標表示を変換するための行列です。
たとえば、基底 \( B = \{ \mathbf{b}_1, \mathbf{b}_2, \dots, \mathbf{b}_n \} \) と \( C = \{ \mathbf{c}_1, \mathbf{c}_2, \dots, \mathbf{c}_n \} \) の2つがあるとします。 あるベクトル \( \mathbf{v} \in \mathbb{R}^n \) の \( B \)-基底での表現が \( [\mathbf{v}]_B \)、\( C \)-基底での表現が \( [\mathbf{v}]_C \) だとすると、
\[ [\mathbf{v}]_C = P [\mathbf{v}]_B \]
という関係を満たす行列 \( P \) を、基底 \( B \) から基底 \( C \) への変換行列と言います。
なぜ基底を変換する必要があるのか?
実際の数学や工学では、状況に応じて「都合の良い基底」でベクトルや行列を表現することが多くあります。 たとえば、以下のような理由があります:
- 行列を対角化しやすくするため
- 線形変換の解析が簡単になるため
- 物理的な意味を持つ座標系(極座標系など)への変換のため
- 数値的な計算を簡略化するため
このような目的のためには、ある基底から別の基底への変換を正しく行う必要があり、 その中心にあるのが「基底の変換行列」です。
基底の変換行列の作り方
基底 \( B = \{ \mathbf{b}_1, \dots, \mathbf{b}_n \} \)、基底 \( C = \{ \mathbf{c}_1, \dots, \mathbf{c}_n \} \) が与えられているとします。次の手順で変換行列 \( P \) を構成します:
- 各 \( \mathbf{b}_i \) を基底 \( C \) の線形結合として表現する。 \[ \mathbf{b}_i = a_{1i} \mathbf{c}_1 + a_{2i} \mathbf{c}_2 + \cdots + a_{ni} \mathbf{c}_n \]
- 上の係数を使って、変換行列 \( P \) を作る: \[ P = \begin{bmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \end{bmatrix} \]
この行列 \( P \) を使えば、任意のベクトルの \( B \)-基底での座標表示から \( C \)-基底での表示を得ることができます。
具体例で理解する
2次元空間での例を見てみましょう。
基底 \( B = \left\{ \begin{bmatrix}1 \\ 0\end{bmatrix}, \begin{bmatrix}0 \\ 1\end{bmatrix} \right\} \)(標準基底)と、 \( C = \left\{ \begin{bmatrix}1 \\ 1\end{bmatrix}, \begin{bmatrix}1 \\ -1\end{bmatrix} \right\} \) を考えます。
基底 \( B \) のベクトルを \( C \) の基底で表すと: \[ \begin{bmatrix}1 \\ 0\end{bmatrix} = \frac{1}{2} \begin{bmatrix}1 \\ 1\end{bmatrix} + \frac{1}{2} \begin{bmatrix}1 \\ -1\end{bmatrix} \] \[ \begin{bmatrix}0 \\ 1\end{bmatrix} = \frac{1}{2} \begin{bmatrix}1 \\ 1\end{bmatrix} – \frac{1}{2} \begin{bmatrix}1 \\ -1\end{bmatrix} \]
よって、基底 \( B \) から \( C \) への変換行列 \( P \) は: \[ P = \begin{bmatrix} \frac{1}{2} & \frac{1}{2} \\ \frac{1}{2} & -\frac{1}{2} \end{bmatrix} \]
この行列を使えば、任意のベクトルを \( B \) 基底から \( C \) 基底へ変換できます。
応用:線形変換と基底の変換
線形変換 \( T: \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^n \) を考えたとき、その行列表現は基底に依存します。
ある基底 \( B \) における行列表現を \( [T]_B \)、別の基底 \( C \) における表現を \( [T]_C \) としたとき、 変換行列 \( P \) により以下の関係が成立します: \[ [T]_C = P [T]_B P^{-1} \]
この関係は、対角化、ジョルダン標準形、固有値分解など、線形代数の多くの応用に直結します。
まとめ
- 基底の変換行列とは、異なる基底間でベクトルの座標を変換する行列
- 変換行列は、古い基底の各ベクトルを新しい基底で表して作る
- 行列の対角化や物理的モデリングで重要な役割を果たす
- 線形変換の行列表現も、基底の変換で相似変換を受ける