【解説】行列の相似

【解説】行列の相似

目次

行列の相似の定義

2つの正方行列 \( A \) と \( B \) が相似であるとは、ある正則行列(逆行列を持つ行列)\( P \) が存在して、 \[ B = P^{-1}AP \] を満たすときのことを言います。このとき、\( A \) と \( B \) は相似関係にあるといい、\( A \sim B \) と書きます。

直感的には、行列 \( A \) を基底変換(座標系の変更)によって表現し直したものが \( B \) であるということです。

相似の性質

行列の相似には以下のような重要な性質があります。

  1. 同じ固有値を持つ
    相似な行列は固有値が等しく、固有多項式も一致します。
  2. 行列式とトレース(跡)は等しい
    \( A \sim B \) ならば、\( \det(A) = \det(B) \)、\( \mathrm{tr}(A) = \mathrm{tr}(B) \)。
  3. 行列式の性質から相似は推移的
    行列 \( A \sim B \) かつ \( B \sim C \) ならば \( A \sim C \)。
  4. 対角化可能性の保存
    一方が対角化可能なら他方も対角化可能。
  5. べき乗も相似
    \( A \sim B \) ならば任意の正整数 \( n \) に対して \( A^n \sim B^n \)。

行列の相似の具体例

例1: 対角行列との相似

次の行列を考えます。 \[ A = \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 0 & 2 \end{pmatrix} \] \( A \) の固有値は 2(重解)で、固有ベクトルは 1 次元空間しか張りません。 よって、\( A \) は対角化できませんが、ジョルダン標準形に相似です。

一方で、 \[ B = \begin{pmatrix} 2 & 0 \\ 0 & 2 \end{pmatrix} \] は \( A \) と同じ固有値を持つ対角行列ですが、\( A \sim B \) ではありません(対角化可能性が異なるため)。

例2: 相似変換で対角化

次の行列を考えます: \[ C = \begin{pmatrix} 4 & 1 \\ 0 & 4 \end{pmatrix} \] この行列はジョルダン標準形であり、次のような行列 \( P \) によって、 \[ P = \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}, \quad P^{-1}CP = \begin{pmatrix} 4 & 0 \\ 0 & 4 \end{pmatrix} \] より、\( C \) はスカラー倍の単位行列と相似です。

相似に関する主要な証明

性質1の証明:固有値が等しい

相似な行列 \( A \sim B = P^{-1}AP \) を考えます。 \[ \det(\lambda I – B) = \det(\lambda I – P^{-1}AP) = \det(P^{-1}(\lambda I – A)P) = \det(\lambda I – A) \] したがって、固有多項式が等しく、固有値も一致します。

性質2の証明:行列式とトレースが等しい

\[ \det(B) = \det(P^{-1}AP) = \det(P^{-1}) \det(A) \det(P) = \det(A) \] また、トレース(対角成分の和)は固有値の和なので、性質1より \( \mathrm{tr}(A) = \mathrm{tr}(B) \)。

性質3の証明:推移性

\( A \sim B \)(ある \( P \) によって)、\( B \sim C \)(ある \( Q \) によって)ならば、 \[ C = Q^{-1}BQ = Q^{-1}(P^{-1}AP)Q = (PQ)^{-1}A(PQ) \] よって \( A \sim C \)。

まとめ

行列の相似とは、基底変換によって行列表現が変わっても本質的な性質が変わらないことを示す概念です。相似な行列は同じ固有値、固有多項式、行列式、トレースを持ちます。対角化やジョルダン標準形といった応用的な話題とも密接に関係しており、線形代数の深い理解の鍵になります。

相似な行列を理解することは、線形代数だけでなく、微分方程式、量子力学、統計解析、計算機科学の分野でも重要な知識となります。例を通じて具体的に理解し、証明を通じてその背景にある理論構造をしっかり把握しておきましょう。

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