対称行列の特徴と使い方まとめ
目次
対称行列の定義
\( n \times n \) の正方行列 \( A \) が対称行列(symmetric matrix)であるとは、次の関係が成り立つことをいいます:
\[ A = A^\mathrm{T} \]
ここで \( A^\mathrm{T} \) は \( A \) の転置行列です。つまり、行と列を入れ替えたものです。具体的には、任意の \( i, j \) について、 \[ a_{ij} = a_{ji} \] が成り立つとき、\( A \) は対称行列です。
対称行列の基本性質
- すべての成分が実数の場合、固有値もすべて実数になります。
- 異なる固有値に属する固有ベクトルは直交します。
- 対称行列は必ず直交行列によって対角化できます(直交対角化)。
- 対称行列の和も対称行列になります:
- スカラー倍も対称性を保ちます:
- 積 \( AB \) が対称行列になるとは限りません。ただし、\( AB = BA \) かつ両者が対称行列である場合、積も対称になります。
\[ A, B \text{ が対称行列} \Rightarrow A + B \text{ も対称行列} \]
\[ \lambda A \text{ は対称行列} \]
具体例で学ぶ対称行列
以下に対称行列とそうでない行列の例を示します。
対称行列の例
\[ A = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 4 & 5 \\ 3 & 5 & 6 \end{pmatrix} \quad \text{は対称行列} \]
非対称行列の例
\[ B = \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 2 & 0 \end{pmatrix} \quad \text{は非対称(転置と一致しない)} \]
直交対角化と固有値の性質
実対称行列 \( A \) に対しては、直交行列 \( Q \) と対角行列 \( D \) を用いて次のように表せます: \[ A = Q D Q^\mathrm{T} \]
ここで:
- \( Q \) は直交行列(列ベクトルが直交かつ正規化)
- \( D \) は対角行列(対角成分が固有値)
この性質は計算上非常に重要で、主成分分析(PCA)や多変量解析の基礎にもなります。
対称行列の応用例
- 物理学:テンソル表現、慣性モーメント行列など。
- 統計学:共分散行列は常に対称行列。
- 機械学習:主成分分析(PCA)で共分散行列の固有値分解を行う。
- 最適化:二次形式 \( x^\mathrm{T} A x \) が対称行列で記述される。
- 画像処理:ラプラシアン行列や類似度行列。
対称行列は数学理論においても応用数学においても極めて重要な役割を担っていることがわかります。