正定値行列の完全ガイド:定義・性質・例題まで徹底解説
正定値行列・半正定値行列の定義
正定値行列および半正定値行列は、主に実対称行列またはエルミート行列に対して定義されます。
正定値行列とは、任意の非ゼロベクトル \( \boldsymbol{x} \) に対して、以下の条件を満たす行列 \( A \) のことを指します:
実数体の場合: \[ \boldsymbol{x}^\top A \boldsymbol{x} > 0 \] 複素数体の場合: \[ \boldsymbol{x}^* A \boldsymbol{x} > 0 \]
半正定値行列とは、任意のベクトル \( \boldsymbol{x} \) に対して、以下の条件を満たす行列 \( A \) のことを指します:
実数体の場合: \[ \boldsymbol{x}^\top A \boldsymbol{x} \geq 0 \] 複素数体の場合: \[ \boldsymbol{x}^* A \boldsymbol{x} \geq 0 \]
ここで、\( \boldsymbol{x}^\top \) は転置、\( \boldsymbol{x}^* \) は共役転置を表します。
正定値行列・半正定値行列の性質
- 固有値による判定: エルミート行列 \( A \) が正定値行列であることと、すべての固有値が正の実数であることは同値です。 同様に、半正定値行列であることと、すべての固有値が非負の実数であることも同値です。
- グラム行列との関係: 半正定値行列は、ある行列 \( B \) を用いて \( A = B^* B \) と表すことができます。 このような形で表される行列をグラム行列と呼びます。
- 逆行列の性質: 正定値行列は正則(可逆)であり、その逆行列も正定値行列となります。
具体例と計算例
例1:単位行列
2次の単位行列 \( I = \begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{bmatrix} \) は、任意の非ゼロベクトル \( \boldsymbol{x} \) に対して、 \[ \boldsymbol{x}^\top I \boldsymbol{x} = \boldsymbol{x}^\top \boldsymbol{x} = \| \boldsymbol{x} \|^2 > 0 \] となるため、正定値行列です。
例2:対称行列
行列 \( A = \begin{bmatrix} 2 & -1 \\ -1 & 2 \end{bmatrix} \) の固有値を求めると、 \[ \lambda = 1, 3 \] となり、すべて正の実数であるため、\( A \) は正定値行列です。
例3:グラム行列
行列 \( B = \begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{bmatrix} \) に対して、 \[ A = B^\top B = \begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{bmatrix} \] となり、\( A \) はグラム行列であり、正定値行列です。
応用例
- 最適化問題: 目的関数のヘッセ行列が正定値である場合、関数は凸であり、最小値を持つことが保証されます。
- 機械学習: カーネル法において、カーネル行列が正定値であることは、再生核ヒルベルト空間の理論において重要です。
- 物理学: 熱伝導率行列や慣性テンソルなど、物理量を表す行列が正定値であることは、エネルギーの正性や安定性に関連します。