一度は理解しておきたい「正規部分群」とは?基礎から応用まで丁寧に解説
群論において、正規部分群(normal subgroup)は非常に重要な概念です。このページでは、正規部分群の定義から直感的な理解、確認方法、例、さらにはなぜ重要なのかまでを豊富な例とともに解説します。
目次
正規部分群の定義
群 \( G \) の部分群 \( N \) が 正規部分群であるとは、次のいずれかの条件を満たすときに言います:
- 任意の \( g \in G \) に対して、\( gNg^{-1} = N \) が成り立つ。
- すなわち、任意の \( g \in G \) および \( n \in N \) に対して、\( gng^{-1} \in N \) が成り立つ。
このとき、\( N \trianglelefteq G \) と書きます。
直感的な理解
直感的には、正規部分群は「群の中で対象をぐるっと回しても構造が変わらない」ような部分群です。部分群の元を群の他の元で共役しても、もとの部分群にとどまっている、ということです。
言い換えると、群全体から見て、正規部分群は「対象として独立していて、群全体の対称性にうまくなじんでいる」ような存在です。
正規性の確認方法
ある部分群が正規部分群であるかどうかを調べるにはいくつか方法があります:
- 定義をそのまま使う方法:
任意の \( g \in G \), \( n \in N \) に対して、\( gng^{-1} \in N \) が成り立つかどうかを確かめる。 - 剰余類が群になるかを調べる方法:
左剰余類 \( gN \) と右剰余類 \( Ng \) が常に一致するかどうかを調べる。つまり、 \[ gN = Ng \quad \forall g \in G \] が成り立つなら、\( N \) は正規部分群である。 - 中心化条件の確認:
\( gng^{-1}n^{-1} \in N \) が成り立つ(共役元と元の積が部分群に含まれる)という形で検証することもできます。
具体例
1. 可換群の任意の部分群は正規部分群
群 \( G \) が可換(すなわち \( ab = ba \) が成り立つ)ならば、任意の部分群 \( H \leq G \) は正規です。なぜなら:
\[ gng^{-1} = ngg^{-1} = n \]となり、必ず元の部分群にとどまるからです。
2. 対称群 \( S_3 \) における正規部分群
群 \( S_3 \) は 3 要素の置換群です。元の一覧:
- 恒等置換 \( e \)
- 2 サイクル \( (12), (13), (23) \)
- 3 サイクル \( (123), (132) \)
この中で、部分群 \( A_3 = \{e, (123), (132)\} \) は正規部分群です。
なぜなら、任意の \( g \in S_3 \) に対して、\( gA_3g^{-1} = A_3 \) が成り立つことが直接確認できるからです。
3. 中心 \( Z(G) \) は常に正規部分群
任意の群 \( G \) において、中心 \( Z(G) = \{ z \in G \mid zg = gz \text{ for all } g \in G \} \) は常に正規部分群になります。
なぜなら、中心の元はすべての元と可換であるため、共役しても変化しません。
4. 正規でない部分群の例
再び \( S_3 \) を考えると、部分群 \( \{e, (12)\} \) は正規ではありません。
例えば、元 \( (13) \in S_3 \) で共役すると:
\[ (13)(12)(13)^{-1} = (23) \]となり、元の部分群には含まれないので、正規部分群ではありません。
なぜ正規部分群が重要なのか?
正規部分群は、商群(factor group) を構成するために不可欠です。商群とは、元の群を正規部分群で「割る」ことで得られる新しい群です。
例えば、\( G \) が群、\( N \trianglelefteq G \) であれば、商群 \( G/N \) は左剰余類の集合に次のような演算を定めることで群になります:
\[ (gN)(hN) = (gh)N \]このように、正規部分群は群の構造を新たに捉え直すための基礎を与えてくれます。また、群のホモモルフィズム(写像)との関係も深く、第一同型定理などの基本定理にも登場します。
さらに、正規部分群は簡約化、分類、構造解析といった群論の重要な目的において鍵となる道具です。