割り算の世界を拡張する!剰余類とその使い道

割り算の世界を拡張する!剰余類とその使い道

「割った余り」は学校で習う基本的な数学の概念ですが、実はこの「余り」の考え方を発展させたものが、剰余類(じょうよりゅう)という強力な概念です。本記事では、整数の割り算における剰余の考え方を基に、剰余類や合同式といった重要なトピックについて、例とともに丁寧に解説します。

目次

割った余りの復習(剰余)

整数 \( a \) を正の整数 \( n \) で割ったとき、割り切れない部分として現れる値を「余り(剰余)」といいます。これは次のように表せます。

\[ a = nq + r,\quad 0 \leq r < n \]

たとえば、17 を 5 で割ると、商は 3、余りは 2 なので、

\[ 17 = 5 \times 3 + 2 \]

このとき、17 の 5 による剰余は 2 です。

剰余による同値関係

整数同士が「同じ余り」を持つとき、それらは「合同である」と言います。これは以下のように書きます。

\[ a \equiv b \pmod{n} \]

たとえば、17 と 2 は 5 で割った余りがどちらも 2 なので、

\[ 17 \equiv 2 \pmod{5} \]

この関係は「同値関係(equivalence relation)」の一種で、次の3つの性質を持ちます:

  • 反射性:\( a \equiv a \pmod{n} \)
  • 対称性:\( a \equiv b \pmod{n} \) ならば \( b \equiv a \pmod{n} \)
  • 推移性:\( a \equiv b \pmod{n},\ b \equiv c \pmod{n} \) ならば \( a \equiv c \pmod{n} \)

剰余類の定義と構造

ある整数 \( a \) に対して、同じ余りを持つすべての整数の集合を「剰余類」と呼びます。

\[ [a]_n = \{ x \in \mathbb{Z} \mid x \equiv a \pmod{n} \} \]

たとえば、\( [2]_5 \) は以下のような無限集合です:

\[ [2]_5 = \{ \ldots, -8, -3, 2, 7, 12, \ldots \} \]

これらの数はすべて 5 で割ったときの余りが 2 になります。

剰余類の記法と読み方

剰余類は角括弧で表し、代表元(通常は 0 以上 \( n-1 \) 以下の数)を使って記述します:

\[ [a]_n \quad \text{または} \quad \overline{a} \]

たとえば、5 を法としたとき、以下のような剰余類が存在します:

  • \([0]_5 = \{ \ldots, -10, -5, 0, 5, 10, \ldots \}\)
  • \([1]_5 = \{ \ldots, -9, -4, 1, 6, 11, \ldots \}\)
  • \([2]_5 = \{ \ldots, -8, -3, 2, 7, 12, \ldots \}\)
  • \([3]_5 = \{ \ldots, -7, -2, 3, 8, 13, \ldots \}\)
  • \([4]_5 = \{ \ldots, -6, -1, 4, 9, 14, \ldots \}\)

つまり、\( \mathbb{Z}_5 \)(5を法とした整数の剰余類全体)は以下のように表されます:

\[ \mathbb{Z}_5 = \{ [0]_5, [1]_5, [2]_5, [3]_5, [4]_5 \} \]

剰余類上の演算

剰余類同士でも加減乗算が定義できます。演算は代表元同士に対して行い、その結果の剰余類を取るという方法です。

加算

\[ [a]_n + [b]_n = [a + b]_n \]

例:\( [3]_5 + [4]_5 = [7]_5 = [2]_5 \)

乗算

\[ [a]_n \cdot [b]_n = [ab]_n \]

例:\( [2]_5 \cdot [3]_5 = [6]_5 = [1]_5 \)

このような演算によって、剰余類の集合 \( \mathbb{Z}_n \) は代数構造(例えば環や体)としての性質を持つようになります。

具体例で理解しよう

以下に具体例をいくつか挙げて理解を深めましょう。

例1:\( n = 4 \) の場合

\[ \mathbb{Z}_4 = \{ [0]_4, [1]_4, [2]_4, [3]_4 \} \]

加算表:

+[0][1][2][3]
[0][0][1][2][3]
[1][1][2][3][0]
[2][2][3][0][1]
[3][3][0][1][2]

例2:\( n = 6 \) のときの乗算

\[ [2]_6 \cdot [3]_6 = [6]_6 = [0]_6 \]

このように、剰余類では掛け算によって 0 になる(零因子が存在する)ことがあります。

例3:素数を法に取った場合

法が素数 \( p \) のとき、すべての非ゼロ剰余類が逆元を持ち、剰余類の集合 \( \mathbb{Z}_p \) は体になります。

たとえば \( \mathbb{Z}_7 \) では、

\[ [3]_7 \cdot [5]_7 = [15]_7 = [1]_7 \]

よって、[5]_7 は [3]_7 の逆元です。


剰余類は一見すると単なる余りの延長のように思えますが、その背後には深い数学的構造があります。整数論、代数学、暗号理論など多くの分野で活用されている重要な概念です。まずは具体的な例から始めて、徐々に抽象的な性質にも慣れていきましょう。

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