ベクトル空間における基底の存在について【初心者向け】
ベクトル空間における基底の存在証明
1. 基底の定義
体 \( K \) 上のベクトル空間 \( V \) において、集合 \( B \subset V \) が次の2つの条件を満たすとき、\( B \) は \( V \) の基底と呼ばれます。
- 一次独立性: \( B \) の任意の有限部分集合が一次独立である。
- 生成性: 任意の \( v \in V \) に対して、\( B \) の有限個の元 \( b_1, \ldots, b_n \in B \) とスカラー \( a_1, \ldots, a_n \in K \) が存在して、\( v = a_1 b_1 + \cdots + a_n b_n \) と表せる。
2. ツォルンの補題
ツォルンの補題は、集合論における重要な命題であり、次のように述べられます。
任意の全順序部分集合が上界を持つ半順序集合は、極大元を持つ。
ここで、半順序集合とは、反射性、反対称性、推移性を満たす集合であり、全順序部分集合とは、任意の2つの元が比較可能な部分集合を指します。
3. 基底の存在の証明
\( V \) を体 \( K \) 上のベクトル空間とし、\( V \neq \{0\} \) とします。以下の集合族を考えます。
\( \mathcal{B} = \{ B \subset V \mid B \text{ の任意の有限部分集合は一次独立} \} \)
この集合族 \( \mathcal{B} \) は、包含関係により半順序集合となります。さらに、任意の全順序部分集合 \( \mathcal{C} \subset \mathcal{B} \) に対して、上界 \( B_\infty = \bigcup_{B \in \mathcal{C}} B \) が存在し、\( B_\infty \in \mathcal{B} \) であることが示せます。
実際、\( B_\infty \) の任意の有限部分集合は、ある \( B \in \mathcal{C} \) に含まれ、その \( B \) は一次独立であるため、\( B_\infty \) の有限部分集合も一次独立です。したがって、\( \mathcal{B} \) はツォルンの補題の適用条件を満たします。
よって、\( \mathcal{B} \) は極大元 \( B^* \) を持ちます。この \( B^* \) が \( V \) の基底であることを示します。
もし \( B^* \) が \( V \) を生成しないとすると、ある \( v \in V \) が \( B^* \) の一次結合で表せません。このとき、\( B^* \cup \{v\} \) は依然として任意の有限部分集合が一次独立であるため、\( \mathcal{B} \) に属します。しかし、これは \( B^* \) の極大性に反します。したがって、\( B^* \) は \( V \) を生成し、基底となります。
4. 例と補足
例1: 実数全体の集合 \( \mathbb{R} \) は、有理数体 \( \mathbb{Q} \) 上のベクトル空間と見なすことができます。このとき、\( \mathbb{R} \) の基底(ハメル基底)は存在しますが、無限次元であり、具体的に構成することは困難です。
例2: \( \mathbb{R}^n \) の標準基底 \( \{e_1, e_2, \ldots, e_n\} \) は、各 \( e_i \) が第 \( i \) 成分のみが1で他が0のベクトルであり、一次独立かつ \( \mathbb{R}^n \) を生成するため、基底となります。
補足: 無限次元ベクトル空間においても、選択公理を仮定すれば基底の存在が保証されます。ただし、具体的な基底を構成することは一般に困難であり、存在のみが保証される場合が多いです。