線形写像が単射になる条件を徹底解説|定義・証明・具体例まで
目次
線形写像と単射の定義
線形写像 \( T: V \to W \) とは、以下の2つの性質を満たす写像です。
- \( T(u + v) = T(u) + T(v) \)(加法に関して線形)
- \( T(cu) = cT(u) \)(スカラー倍に関して線形)
ここで、\( V \) および \( W \) はベクトル空間です。
写像 \( T \) が単射(injective)であるとは、次の条件を満たすことを意味します。
- \( T(u) = T(v) \) ならば \( u = v \)
つまり、異なる入力が異なる出力に対応するということです。情報が「失われない」変換とも言えます。
単射となる必要十分条件
線形写像 \( T: V \to W \) が単射であるための必要十分条件
定理: 線形写像 \( T: V \to W \) が単射である ⇔ 核(kernel)が自明(ゼロベクトルのみ)である。
つまり、以下が必要十分条件です:
証明の流れと解説
(⇒)単射ならば核が自明
仮定:\( T \) は単射。
示すべきこと:\( \ker(T) = \{ \mathbf{0} \} \)
定義より、\( T(v) = \mathbf{0} \) を満たす \( v \) を考えると、\( T(v) = T(\mathbf{0}) \)。
単射性より、\( v = \mathbf{0} \)。よって、\( \ker(T) = \{ \mathbf{0} \} \)。
(⇐)核が自明ならば単射
仮定:\( \ker(T) = \{ \mathbf{0} \} \)
示すべきこと:\( T(v_1) = T(v_2) \) ならば \( v_1 = v_2 \)
\( T(v_1) = T(v_2) \) ⇔ \( T(v_1 – v_2) = \mathbf{0} \) ⇔ \( v_1 – v_2 \in \ker(T) \)
核が自明なので、\( v_1 – v_2 = \mathbf{0} \) ⇔ \( v_1 = v_2 \)。よって単射。
具体例で理解を深める
例1:単射な線形写像
\( T: \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2 \) を次のように定めます。
このとき、核を調べます:
よって核は \(\{\mathbf{0}\}\) なので単射。
例2:単射でない線形写像
\( T: \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2 \)、\( T(x, y) = (x, 0) \)
このとき、核は \( \{ (0, y) \mid y \in \mathbb{R} \} \) で無限に存在するため、単射ではない。
行列としての解釈
線形写像 \( T: \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m \) は、行列 \( A \in \mathbb{R}^{m \times n} \) により表されることがあります:
このとき、\( T \) が単射 ⇔ \( A\mathbf{x} = \mathbf{0} \) の唯一の解が \( \mathbf{x} = \mathbf{0} \) ⇔ \( \operatorname{rank}(A) = n \)
つまり、列ベクトルが線形独立ならば写像は単射。
関連する概念との関係
核と像の次元の関係
次元定理(rank-nullity theorem)によれば、
したがって、核が自明である ⇔ 像の次元が最大(=定義域の次元) ⇔ 単射。
全射や全単射との違い
- 単射:核が自明。
- 全射:像が終域全体。
- 全単射:単射かつ全射(可逆な線形写像)
逆写像の存在
線形写像が全単射 ⇔ 逆写像(線形)が存在 ⇔ 行列が正則(正方行列で行列式非ゼロ)