ハメル基底の解説【初心者向け】
ハメル基底の解説
概要
実数全体の集合 \( \mathbb{R} \) は、有理数体 \( \mathbb{Q} \) 上のベクトル空間とみなすことができます。 このベクトル空間における基底の一つが「ハメル基底」と呼ばれます。 ハメル基底は、以下の2つの性質を満たす集合 \( H \subset \mathbb{R} \) です:
- \( H \) の任意の有限個の異なる元 \( h_1, h_2, \ldots, h_n \) と、それに対応する有理数係数 \( q_1, q_2, \ldots, q_n \) に対して、次が成り立つ: $$ q_1 h_1 + q_2 h_2 + \cdots + q_n h_n = 0 \Rightarrow q_1 = q_2 = \cdots = q_n = 0 $$ これは、\( H \) が線形独立であることを意味します。
- 任意の実数 \( x \in \mathbb{R} \) に対して、有限個の \( H \) の元 \( h_1, h_2, \ldots, h_m \) と有理数係数 \( q_1, q_2, \ldots, q_m \) が存在し、次のように表せる: $$ x = q_1 h_1 + q_2 h_2 + \cdots + q_m h_m $$ これは、\( H \) が \( \mathbb{R} \) を生成することを示しています。
存在と構成
ハメル基底の存在は、選択公理を仮定することで保証されます。 選択公理により、任意のベクトル空間には基底が存在することが示されており、特に \( \mathbb{R} \) のような無限次元のベクトル空間にも適用されます。 ただし、ハメル基底の具体的な構成方法は知られておらず、明示的に示すことは困難です。
濃度(基底の大きさ)
ハメル基底の濃度、すなわちその集合の大きさは、実数全体の濃度と同じ「連続体濃度」となります。 これは、以下のように示されます:
- \( H \subset \mathbb{R} \) であるため、\( |H| \leq |\mathbb{R}| \) が成り立ちます。
- 一方、\( \mathbb{R} \) は \( H \) の有限個の元の有理数係数による線形結合で表されるため、\( \mathbb{R} \subset \bigcup_{n=1}^{\infty} \text{Span}_{\mathbb{Q}}(H_n) \) となります。
- 各 \( \text{Span}_{\mathbb{Q}}(H_n) \) の濃度は可算であり、可算個の可算集合の合併は高々可算濃度となるため、全体として \( |\mathbb{R}| \leq |H| \cdot \aleph_0 \) が成り立ちます。
- 以上より、\( |H| = |\mathbb{R}| \) が導かれます。
関連する話題:コーシーの関数方程式
コーシーの関数方程式は、次の形をしています: $$ f(x + y) = f(x) + f(y) $$ この方程式を満たす関数 \( f: \mathbb{R} \to \mathbb{R} \) は、ハメル基底を用いることで構成することができます。 具体的には、ハメル基底 \( H \) の元 \( h_0 \) を一つ選び、次のように定義します: $$ f(h) = \begin{cases} 1 & \text{if } h = h_0 \\ 0 & \text{if } h \in H \setminus \{h_0\} \end{cases} $$ この定義を \( \mathbb{R} \) 全体に線形に拡張することで、コーシーの関数方程式を満たす関数 \( f \) を得ることができます。