高校生のためのn変数不等式証明 応用問題徹底解説|基礎から実践まで
はじめに:n変数の不等式証明とは?
「不等式証明」とは、ある不等式が成立することを論理的に示すことを指します。特にn変数の不等式とは、複数の変数を含む不等式のことです。高校数学では1変数の不等式から始まり、より多くの変数が絡む不等式の証明は、理解と技術の両面でチャレンジングです。
このページでは、n変数の不等式の中でも応用的な問題について、基礎から順を追って説明し、典型的な解法パターンや考え方を例題と共にわかりやすく解説します。
基本の不等式:復習と代表例
まずは基本となる代表的な不等式を確認しましょう。これらの不等式はn変数問題を解く土台になります。
- 平均値の不等式(算術・幾何平均不等式)
任意の正の実数 \( a_1, a_2, \ldots, a_n \) に対して、 \[ \frac{a_1 + a_2 + \cdots + a_n}{n} \geq \sqrt[n]{a_1 a_2 \cdots a_n} \] が成り立ち、等号はすべての \( a_i \) が等しいときに成立します。 - コーシー・シュワルツの不等式
任意の実数 \( a_i, b_i \)(\( i=1,2,\ldots,n \))に対して、 \[ \left(\sum_{i=1}^n a_i b_i \right)^2 \leq \left(\sum_{i=1}^n a_i^2 \right) \left(\sum_{i=1}^n b_i^2 \right) \] が成り立ちます。 - 三角不等式
実数 \( a, b \) に対して、 \[ |a + b| \leq |a| + |b| \] が成立します。
これらはn変数の不等式問題で頻繁に利用される強力なツールです。
n変数不等式証明の主な手法
n変数不等式証明では、以下のような手法がよく使われます。
- 対称式の利用
変数の置換や入れ替えによる式の対称性を利用して、不等式の形を簡単にします。 - 整理・変形
両辺を同じ形に揃えたり、差を考えたりして不等式を証明しやすい形に変形します。 - 数学的帰納法
変数の数 \( n \) に対して証明を進める方法で、一般化された不等式の証明に有効です。 - 主要不等式の応用
平均値の不等式、コーシー・シュワルツの不等式、凸関数の性質を用いた証明など。 - 分割と場合分け
変数の大小関係に応じて場合分けを行い、不等式の成立を示す方法。
例題1:対称式不等式の証明
問題:正の実数 \( a, b, c \) に対して、次の不等式を証明せよ。
\[ \frac{a}{b+c} + \frac{b}{a+c} + \frac{c}{a+b} \geq \frac{3}{2} \]解説:
この不等式は三変数の対称式であり、変数の置換により形が変わりません。解法の一つとしては、分母の対称性を利用し、分子分母を工夫して比較する方法です。
証明の流れ:
- まずは分母をまとめて考え、全体の形を見ます。
- 次に、両辺に \( 2(a+b+c) \) をかけて変形すると、等価な不等式に変わります。
実際の計算:
\[ \sum_{\mathrm{cyc}} \frac{a}{b+c} \geq \frac{3}{2} \iff 2 \sum_{\mathrm{cyc}} \frac{a}{b+c} \geq 3 \] 両辺に \( (a+b+c) \) をかけて、 \[ 2(a+b+c) \sum_{\mathrm{cyc}} \frac{a}{b+c} \geq 3(a+b+c) \] ただし、ここでホモジニアス(同次)性を利用し、\( a+b+c=1 \) と置いても良いことに注意します。ここからは、例えば「補助変数の導入」や「定番の不等式の適用」で証明を完成させます。例えば、ナイキスト不等式やトリックとして各項の比較を用いる手法もあります。
例題2:加法・乗法不等式の応用
問題:正の実数 \( x_1, x_2, \ldots, x_n \) に対し、次を証明せよ。
解説:
この不等式は調和平均と算術平均の関係を表しており、コーシー・シュワルツの不等式を用いて証明可能です。
証明:
\[ \left( \sum_{i=1}^n x_i \right) \left( \sum_{i=1}^n \frac{1}{x_i} \right) \geq \left( \sum_{i=1}^n \sqrt{x_i \cdot \frac{1}{x_i}} \right)^2 = \left( \sum_{i=1}^n 1 \right)^2 = n^2 \] 等号はすべての \( x_i \) が等しいときに成立します。例題3:数学的帰納法を使った不等式
問題:正の実数 \( a_1, a_2, \ldots, a_n \) に対し、以下を証明せよ。
\[ \sum_{i=1}^n \frac{1}{a_i} \geq \frac{n^2}{\sum_{i=1}^n a_i} \]解説:この不等式も算術・調和平均の関係ですが、数学的帰納法で証明する練習として最適です。
証明:
- \( n=1 \) の場合、明らかに等式が成り立つ。
- \( n=k \) のとき成り立つと仮定する。
- \( n=k+1 \) のときに示す。
\( n=k+1 \) の場合、\( a_{k+1} \) を追加した形で不等式を考え、既存の仮定と組み合わせて評価します。
数学的帰納法の詳細:
\[ \sum_{i=1}^{k+1} \frac{1}{a_i} = \sum_{i=1}^k \frac{1}{a_i} + \frac{1}{a_{k+1}} \geq \frac{k^2}{\sum_{i=1}^k a_i} + \frac{1}{a_{k+1}} \] ここで、分母の和と分数の加法不等式を利用して、右辺をさらに評価し \[ \frac{(k+1)^2}{\sum_{i=1}^{k+1} a_i} \] に対する評価を行い、証明を完成させます。まとめと学習のポイント
n変数の不等式証明は、一見難しく感じられますが、基本の不等式の理解と使いこなしが肝心です。平均値の不等式やコーシー・シュワルツの不等式は強力な武器になります。また、対称性や数学的帰納法を使いこなすことで応用問題も攻略可能です。
さらに、分数や積の形の不等式は分母をそろえたり、差を取ったり、既知の不等式に変形する技術が役立ちます。たくさんの問題を解いてパターンをつかみましょう。