協力か裏切りか? 囚人のジレンマとコモンズの悲劇を徹底解説!

協力か裏切りか? 囚人のジレンマとコモンズの悲劇を徹底解説!

目次

囚人のジレンマとは?

囚人のジレンマ(Prisoner’s Dilemma)とは、ゲーム理論でよく知られている問題で、2人の囚人が取り調べを受けている状況をモデル化したものです。 互いに協力するのが最善であるにもかかわらず、自分だけが得をしようとして裏切ることで、結局は両者にとって悪い結果になるという構造が特徴です。

以下のような報酬行列(ペイオフマトリクス)で表されます:

囚人Bが黙秘 囚人Bが自白
囚人Aが黙秘 (-1年, -1年) (-10年, 0年)
囚人Aが自白 (0年, -10年) (-5年, -5年)

最も軽い刑を受けたいと考えると、どちらも自白を選びます(自己の利益の最大化)。 結果、両者とも5年の刑になり、黙秘していたら1年で済んだという非効率な結末を迎えるのです。

囚人のジレンマの実例

以下のような状況も囚人のジレンマに当てはまります:

  • 国同士の軍拡競争:互いに軍縮すれば安心して資源を他に使えるが、相手に裏切られると危険なので軍備を増強してしまう。
  • 値下げ競争:企業が価格を下げ合って利益が減るが、他社に顧客を奪われたくないため自社も値下げする。
  • カンニング:全員が正々堂々と受験すればいいのに、他人がカンニングするかもしれないから自分もしてしまう。

ナッシュ均衡と囚人のジレンマ

囚人のジレンマは「ナッシュ均衡」によって説明されます。 ナッシュ均衡とは、相手の戦略を前提にしたとき、自分の戦略を変えても得が増えない状態のことです。

囚人のジレンマでは、両者が「自白」を選ぶのがナッシュ均衡です。 なぜなら、相手が黙秘しても自白した方が自分の刑が軽くなり、相手が自白しても自白しなければより重い刑になるからです。

数式で書くと、プレイヤーAの利得関数 \( U_A \) とプレイヤーBの利得関数 \( U_B \) があったとき、 それぞれの選択 \( s_A, s_B \) がナッシュ均衡である条件は次のようになります:

\[ U_A(s_A^*, s_B^*) \geq U_A(s_A, s_B^*) \quad \forall s_A \\ U_B(s_A^*, s_B^*) \geq U_B(s_A^*, s_B) \quad \forall s_B \]

コモンズの悲劇とは?

コモンズの悲劇(Tragedy of the Commons)は、共有資源が過剰に利用され、結果として全体にとって不利益になる現象を指します。 「コモンズ(Commons)」とは、みんなが自由に使える牧草地などの共有資源を意味します。

個々の利用者が自己の利益を最大化しようと行動すると、最終的に資源が枯渇し、誰も得をしない状況に陥ってしまいます。

コモンズの悲劇の具体例

  • 漁業:漁師が魚を獲りすぎて、魚の数が減り、次の年には漁獲量が激減。
  • 大気汚染:企業が排煙を出し続けた結果、空気が汚れ、健康被害が社会全体に。
  • 森林伐採:皆が木を切りすぎてしまい、森林が再生不能になる。
  • 水の浪費:無料で使える水を誰もが大量に使うことで、水不足が発生。

囚人のジレンマとコモンズの関係

コモンズの悲劇は、囚人のジレンマの集団版とも言えます。 どちらも「個々の合理的行動が、全体として非合理な結果を生む」という特徴があります。

例えば、全員が「自分の利益のためにもう1頭牛を放そう」と思えば、牧草地が荒廃し、最終的には全員損をします。 これは、囚人のジレンマにおいて全員が「裏切る(自白)」を選ぶ構図に似ています。

解決策と政策的アプローチ

囚人のジレンマやコモンズの悲劇を回避するには、次のような方法があります:

1. 繰り返しゲーム

囚人のジレンマを一度きりでなく繰り返すと、「報復」や「信頼」が影響し、協力が生まれやすくなります。 これを「繰り返し囚人のジレンマ」と呼びます。

2. 規制やルール

法律やルールで「取りすぎ」や「排出量」などを制限することで、過剰利用を防ぎます。 漁業の漁獲制限や、公害規制などが代表例です。

3. 所有権の明確化

共有ではなく、個別に所有権を与えることで「自分の資源を守る」インセンティブが働きます。 例えば、私有林なら、木を切りすぎないように管理する動機が生まれます。

4. 社会的罰・評価制度

村の中で「資源を乱用した人は非難される」といった社会的圧力や、協力的な行動に報酬を与える制度(例:カーボン・クレジット)も有効です。

このように、経済学では人間の非協力的行動をモデル化し、その結果を予測するだけでなく、どうすればより良い社会的結果が得られるかを考えることも重要なのです。

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