絶対収束すれば必ず収束?徹底的に理解する無限級数の性質
無限級数の学習において、「絶対収束すれば収束する」という性質は非常に重要です。しかしながら、この命題の意味や背後にある理由を深く理解している人は少なくありません。この記事では、この性質を理論・直感・例題の観点から徹底的に解説します。
目次
1. 級数とは何か?
級数とは、数列の項を次々に足し合わせていく操作を指します。具体的には、数列 \\(\{a_n\}\\) に対して、
\\[ \sum_{n=1}^\infty a_n = a_1 + a_2 + a_3 + \cdots \\]
という形で表されるものが「無限級数」です。この和がある有限な値に収束する場合、その級数は収束するといい、そうでない場合は発散するといいます。
2. 絶対収束と条件収束の定義
2.1 絶対収束
級数 \\(\sum a_n\\) が絶対収束するとは、以下の級数が収束することを意味します:
\\[ \sum_{n=1}^\infty |a_n| < \infty \\]
つまり、各項の絶対値を取った級数が収束する場合、元の級数も「絶対収束する」といいます。
2.2 条件収束
級数 \\(\sum a_n\\) が収束はするが、絶対収束はしないとき、その級数は「条件収束する」といいます。
つまり以下の両方を満たす必要があります:
- \\(\sum a_n\\) は収束する
- \\(\sum |a_n|\\) は発散する
3. 「絶対収束すれば収束する」の命題
命題:無限級数が絶対収束すれば、その級数は必ず収束する。
これは逆は必ずしも成り立たない(後述の条件収束の例参照)ものの、非常に強力な性質です。これはすべての解析学の教科書で重要定理として取り扱われます。
4. なぜ絶対収束すれば収束するのか?(証明と直感)
4.1 三角不等式を使った証明
証明の鍵は、部分和の列がCauchy列になることです。
\\[ \left| \sum_{k=n+1}^{m} a_k \right| \leq \sum_{k=n+1}^{m} |a_k| \\]
これは三角不等式により成り立ちます。\\(\sum |a_k|\\) が収束するということは、その部分和列がCauchy列であるということなので、右辺は任意に小さくできます。すると左辺も小さくできるため、\\(\sum a_k\\) もCauchy列、すなわち収束するということになります。
4.2 直感的理解
絶対収束している級数は、正負の振動が収まった後に非常に小さい値になっていくと考えられます。各項の「大きさ」自体が有限の和になる程度に十分小さいので、符号がどうであれ合計も落ち着いた値に収束していく、という直感です。
5. 条件収束の反例
5.1 有名な交代調和級数
\\[ \sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{n+1}}{n} = 1 – \frac{1}{2} + \frac{1}{3} – \frac{1}{4} + \cdots \\]
この級数は収束します(条件付き収束)が、絶対値を取った級数:
\\[ \sum_{n=1}^\infty \left|\frac{(-1)^{n+1}}{n}\right| = \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n} \\]
は発散します。つまり、この級数は条件収束の典型的な例です。
5.2 リーマンの再配列定理
リーマンの再配列定理によれば、条件収束する級数に対しては、項の並び替えにより、任意の実数に収束させることも、発散させることもできるという驚くべき事実があります。したがって、絶対収束していない級数は不安定な性質を持つことがわかります。
6. まとめと補足
- 絶対収束とは「項の絶対値をとった級数が収束すること」
- 絶対収束する級数は必ず収束する(これは非常に強い性質)
- 条件収束する級数もあるが、安定性に欠ける
絶対収束かどうかを確認することは、級数の扱いにおいて非常に重要です。特に符号が交互に変化するような級数では、条件収束である可能性も高いため、注意が必要です。
この記事で紹介した知識は、大学数学の基礎解析・実解析の分野で頻出する内容です。これを機に級数の理解を深めましょう。