理解が深まる!アスコリ–アルツェラの定理

理解が深まる!アスコリ–アルツェラの定理

目次

アスコリ–アルツェラの定理とは

アスコリ–アルツェラの定理は、実関数列の収束性とコンパクト性に関する重要な定理です。この定理は、関数解析や実解析において、関数列の部分列が一様収束するための十分条件を与えます。

定理の背景と重要性

関数列 \( \{f_n\} \) がある意味で「よく振る舞う」場合に、それが一様収束する部分列を持つかどうかを判断することは解析学で基本的かつ重要な課題です。点列におけるボルツァーノ–ワイエルシュトラスの定理に対応する「関数列版」がアスコリ–アルツェラの定理です。

定理のステートメント

アスコリ–アルツェラの定理(Ascoli–Arzelà’s theorem)

\( K \subset \mathbb{R} \) をコンパクト集合とし、\( \mathcal{F} \) を \( C(K) \)(実数値連続関数の集合)内の関数族とする。もし次の2条件が満たされるならば、\( \mathcal{F} \) の任意の列には一様収束する部分列が存在する:

  1. \( \mathcal{F} \) は一様有界:すなわち、ある定数 \( M > 0 \) が存在して、すべての \( f \in \mathcal{F} \) とすべての \( x \in K \) に対して \( |f(x)| \leq M \)。
  2. \( \mathcal{F} \) は一様等連続:すなわち、任意の \( \varepsilon > 0 \) に対して、ある \( \delta > 0 \) が存在し、すべての \( f \in \mathcal{F} \)、任意の \( x, y \in K \) に対して \( |x – y| < \delta \Rightarrow |f(x) - f(y)| < \varepsilon \)。

用語の解説

一様有界

関数族のすべての関数が同じ定数 \( M \) によって抑えられる性質です。つまり、どの関数を選んでも、グラフが「ある高さ」以上に飛び出さない状態です。

一様等連続

関数族内のすべての関数が「同じ」連続性の程度を持つという意味です。通常の等連続との違いは、\( \delta \) が関数によらずに選べるという点です。

証明の概要

この定理の証明は、以下の3つのステップから構成されます。

  1. コンパクト集合上の点列を稠密点列として選ぶ(例えば有理数点)
  2. 対角化法により、選んだ点で収束する部分列を構成
  3. 等連続性により、全体で一様収束することを示す

証明の詳細ステップ

ステップ1:稠密部分集合の選定

\( K \subset \mathbb{R} \) はコンパクトなので可分であり、稠密な点列 \( \{x_k\}_{k=1}^\infty \subset K \) を選べます。

ステップ2:点ごとの収束列の構成

一様有界性より、各点 \( x_k \) に対して列 \( \{f_n(x_k)\} \) は実数列であり有界なので、ボルツァーノ–ワイエルシュトラスの定理により収束部分列を取れます。対角化法によりすべての \( x_k \) で収束する共通部分列 \( \{f_{n_j}\} \) を得ます。

ステップ3:一様等連続性による一様収束

等連続性により、点ごとの収束から関数としての一様収束に拡張されます。任意の \( \varepsilon > 0 \) に対して、ある \( \delta > 0 \) が全ての関数に共通して存在するため、\( K \) 上での収束は一様収束となります。

具体例で理解しよう

例1:連続関数の族

\( f_n(x) = \frac{\sin(nx)}{n} \) を \( [0, \pi] \) 上で考えます。この関数列は一様有界です(\( |f_n(x)| \leq 1/n \))かつ一様等連続です(微分を考えれば分かります)。したがって、アスコリ–アルツェラの定理により一様収束部分列を持ちます。

例2:一様有界だが等連続でない場合

\( f_n(x) = \sin(nx) \) を \( [0, 2\pi] \) 上で考えます。この族は一様有界ですが、一様等連続ではありません(振動が激しくなっていく)。よって一様収束部分列を持ちません。

まとめと補足

  • アスコリ–アルツェラの定理は関数列の「コンパクト性」に関する本質的なツール。
  • 一様有界性と一様等連続性が鍵。
  • 対角化と等連続性のアイデアが証明の中核を成す。

この定理は関数解析、微分方程式、実解析など多くの分野で応用されます。例えば、フーリエ解析における関数列の収束解析や、バナッハ空間での弱収束の議論にも現れます。

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