行列式の性質

行列式の性質

目次

行列式の定義

行列式(determinant)は、正方行列に対して定義されるスカラー量であり、行列が線形変換として空間をどれだけ「引き伸ばす」かや、「体積の変化率」を示すものです。

例えば、2次正方行列 \[ A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \] の行列式は次のように定義されます: \[ \det(A) = ad – bc \]

一般に、\( n \times n \) 行列の行列式は、置換と符号を用いて以下のように定義されます: \[ \det(A) = \sum_{\sigma \in S_n} \text{sgn}(\sigma) \prod_{i=1}^n a_{i,\sigma(i)} \] ここで \( S_n \) は \( n \) 要素の置換全体の集合、\(\text{sgn}(\sigma)\) は置換の符号です。

行列式の計算方法

行列式は次のような方法で計算されます。

2次・3次の行列

– 2次行列: \[ \det\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} = ad – bc \]

– 3次行列: \[ \det\begin{pmatrix} a & b & c \\ d & e & f \\ g & h & i \end{pmatrix} = aei + bfg + cdh – ceg – bdi – afh \] またはサラス法によって計算することも可能です。

展開による計算(余因子展開)

任意の \( n \times n \) 行列は、任意の行または列について余因子展開により計算できます。 \[ \det(A) = \sum_{j=1}^n a_{ij} C_{ij} \] ここで \( C_{ij} = (-1)^{i+j} \det(M_{ij}) \)、\( M_{ij} \) は \( i \) 行 \( j \) 列を除いた部分行列です。

行基本変形を用いた計算

  • ある行(列)を定数倍:行列式もその定数倍される
  • ある行(列)を他の行(列)に加える:行列式は変化しない
  • 2つの行(列)を入れ替える:行列式の符号が反転

行列式の性質一覧

  • \(\det(I) = 1\):単位行列の行列式は1
  • 行や列を入れ替えると符号が反転
  • 行や列が同じなら行列式は0
  • 行列に行基本変形を加えると、それに応じて行列式が変化
  • \(\det(AB) = \det(A)\det(B)\):行列式の乗法性
  • \(\det(A^T) = \det(A)\):転置しても行列式は変わらない
  • 三角行列の行列式は対角成分の積
  • 逆行列が存在する行列 \( A \) では、\(\det(A) \neq 0\)

主要な性質の証明

証明1:転置しても行列式は変わらない

定義より、 \[ \det(A) = \sum_{\sigma \in S_n} \text{sgn}(\sigma) \prod_{i=1}^n a_{i,\sigma(i)} \] を転置行列 \( A^T \) に適用すると、列と行が入れ替わるだけなので積の順序も変わらず、同じ結果になります。

証明2:\(\det(AB) = \det(A)\det(B)\)

計算による直接証明もできますが、線形変換としての解釈(体積のスカラー倍)により、行列 \( A \), \( B \) の変換を連続でかけたときの体積の変化は個別の変化率の積であるため、乗法性が成り立ちます。

証明3:行が等しいときの行列式は0

2つの行が等しい行列を考えると、これらの行を交換しても行列自体は変わらない。しかし、交換によって行列式の符号は反転するので、 \[ \det(A) = -\det(A) \Rightarrow \det(A) = 0 \]

具体例で理解しよう

例1:基本的な行列

\[ A = \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix}, \quad \det(A) = 1 \cdot 4 – 2 \cdot 3 = -2 \]

例2:上三角行列

\[ B = \begin{pmatrix} 2 & 3 & 4 \\ 0 & 5 & 6 \\ 0 & 0 & 7 \end{pmatrix}, \quad \det(B) = 2 \cdot 5 \cdot 7 = 70 \]

例3:行を入れ替えた行列

\[ C = \begin{pmatrix} 3 & 4 \\ 1 & 2 \end{pmatrix}, \quad \det(C) = 3 \cdot 2 – 4 \cdot 1 = 2 \] これを行を入れ替えると、 \[ C’ = \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix}, \quad \det(C’) = -2 \] 符号が反転することが確認できます。

まとめ

行列式は線形代数の基本概念であり、行列の性質や解の存在・一意性の判定、さらには線形変換の幾何的な解釈にも直結します。 本稿では行列式の定義から計算方法、性質とその証明、さらに具体例までを徹底的に解説しました。数学を深く理解するためには、これらの性質を単なる暗記ではなく、証明を通じて自分の中に落とし込むことが大切です。

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