行列の三角化って何?計算の効率が劇的に変わるテクニック
目次
行列の三角化とは?
行列の三角化とは、ある正則行列 \( P \) を使って、与えられた行列 \( A \) を 上三角行列または下三角行列に変換する操作を指します。具体的には、次のように表されます:
\[ P^{-1} A P = T \]
ここで \( T \) は三角行列(上三角または下三角)です。この操作は、線形変換の構造をより単純に理解するためや、 行列の計算(特にべき乗や指数関数、固有値の計算)を効率化するために非常に重要です。
なぜ三角化が重要なのか?
三角化のメリットは以下の通りです:
- 計算が簡単になる(例:行列式や固有値の計算)
- 行列のべき乗が簡単になる(対角要素のべき乗を取るだけ)
- 固有値がすぐに分かる(上三角行列では対角成分がそのまま固有値)
- LU分解やQR分解のステップで重要な役割を果たす
三角行列の種類
三角行列には主に以下の2種類があります。
上三角行列(Upper Triangular Matrix)
対角成分より下側がすべて0の行列です。
\[ \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ 0 & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \cdots & a_{nn} \end{pmatrix} \]
下三角行列(Lower Triangular Matrix)
対角成分より上側がすべて0の行列です。
\[ \begin{pmatrix} a_{11} & 0 & \cdots & 0 \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & 0 \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \end{pmatrix} \]
三角化の具体的方法
1. ガウスの消去法
最も基本的な方法です。行基本変形を用いて上三角行列に変形します。LU分解と関連します。
2. 類似変換(対角化の一般化)
ある正則行列 \( P \) を用いて、\( P^{-1} A P \) を三角行列にする方法。ジョルダン標準形の一歩手前です。
3. QR分解
直交行列 \( Q \) と上三角行列 \( R \) を用いて、行列を分解します: \[ A = QR \] この形は特に数値解析で重要です。
具体例で理解する三角化
例1:ガウス消去による上三角化
\[ A = \begin{pmatrix} 2 & 1 & -1 \\ -3 & -1 & 2 \\ -2 & 1 & 2 \end{pmatrix} \]
この行列に対してガウスの消去法を使うと、次のような上三角行列に変換されます:
\[ \begin{pmatrix} 2 & 1 & -1 \\ 0 & 0.5 & 0.5 \\ 0 & 0 & 3 \end{pmatrix} \]
例2:類似変換による三角化
行列 \[ A = \begin{pmatrix} 4 & 1 \\ 0 & 4 \end{pmatrix} \] は既に上三角行列です。このように、固有値が重複しても三角化できることがあります。
三角化の応用
- 固有値の計算: 三角化された行列では、対角要素が固有値になります。
- 行列の対角化のステップ: 完全な対角化ができない場合でも、三角化は近似的な性質を保持します。
- 行列の指数関数や対数: 三角行列であれば、これらの計算も簡素化されます。
- 線形常微分方程式の解法: 行列三角化はシステムの分解に使われます。
まとめ
行列の三角化は、線形代数における強力なテクニックです。行列の構造を明確にし、計算を効率化する上で非常に役立ちます。特に「よびのり」や大学入試などでも頻出のテーマであり、数学的なセンスを磨く上で欠かせない知識と言えるでしょう。