交代行列の定義と特徴を徹底解説!
目次
交代行列の定義
交代行列(こうたいぎょうれつ)とは、正方行列 \( A \) が以下の条件を満たすときのことを指します:
\[ A^\mathrm{T} = -A \]
すなわち、転置行列がもとの行列の符号を反転させたものと等しい場合、その行列は交代行列(または反対称行列、英: skew-symmetric matrix)と呼ばれます。
この定義から、交代行列は必ず正方行列でなければならず、また、対角成分については以下のように成り立ちます:
\[ a_{ii} = -a_{ii} \Rightarrow a_{ii} = 0 \]
つまり、交代行列のすべての対角要素はゼロである必要があります。
交代行列の具体例
以下にいくつかの次元における交代行列の例を示します。
2次の例
\[ A = \begin{pmatrix} 0 & a \\ -a & 0 \end{pmatrix} \quad (a \in \mathbb{R}) \]
3次の例
\[ A = \begin{pmatrix} 0 & a & b \\ -a & 0 & c \\ -b & -c & 0 \end{pmatrix} \quad (a, b, c \in \mathbb{R}) \]
上記のように、非対角成分は互いに符号が逆になっており、対角成分はすべてゼロです。
交代行列の主な性質
- 1. 対角成分は常にゼロ:定義から明らかです。全ての \( i \) に対して \( a_{ii} = 0 \) となります。
- 2. 偶数次の交代行列は非自明な固有値を持ち得る:実対係数で考えた場合、純虚数の固有値が現れることがあります。
- 3. 奇数次の交代行列の行列式はゼロ: \[ \text{行列式 } \det(A) = \det(-A^\mathrm{T}) = (-1)^n \det(A) \] 奇数次ならば \( (-1)^n = -1 \) なので、 \[ \det(A) = -\det(A) \Rightarrow \det(A) = 0 \]
- 4. 任意の実正方行列 \( M \) は対称行列と交代行列に分解可能: \[ M = \frac{1}{2}(M + M^\mathrm{T}) + \frac{1}{2}(M – M^\mathrm{T}) \] このとき、前者は対称行列、後者は交代行列です。
- 5. 交代行列の指数関数は直交行列になる:時間発展や回転行列との関連で重要です。たとえば、物理や工学の回転運動に関係します。
交代行列の応用例
交代行列は以下のような分野で重要な役割を果たします。
1. ベクトルの外積(3次元空間)
ベクトル \( \mathbf{v} = (x, y, z)^\mathrm{T} \) に対して、対応する交代行列 \( [\mathbf{v}]_\times \) は次のように定義されます:
\[ [\mathbf{v}]_\times = \begin{pmatrix} 0 & -z & y \\ z & 0 & -x \\ -y & x & 0 \end{pmatrix} \]
この行列を使えば、任意のベクトル \( \mathbf{u} \) に対して \[ [\mathbf{v}]_\times \mathbf{u} = \mathbf{v} \times \mathbf{u} \] が成り立ちます。
2. 回転行列の生成
3次元空間での回転行列は、交代行列の指数関数 \[ \exp(\theta A) \] を用いて生成できます。ここで \( A \) は交代行列で、\( \theta \) は回転角です。これはロドリゲスの回転公式などと密接に関係します。
3. ハミルトン系・力学系
交代行列は、ハミルトン系における構造行列やポアソン括弧の定義などに現れます。特にシンプレクティック行列やその生成に関わる交代構造との関係で重要です。
4. 機械学習・最適化
特定の制約条件の下での最適化問題や、リーマン多様体上での勾配法などにおいて、交代行列が構造保存的な役割を果たす場合があります。