制度と目的について~大学入試共通テストを例に~

制度と目的について~大学入試共通テストを例に~

AIの発展などによって求められる学力が変化しているなどという考えに基づき、主に国公立大学の1次試験として用いられる「センター試験」が「共通テスト」に変更になりました。変更になったのは名称だけでなく、問題にも大きな変化があったようです。特に、読解量の増加や問題文の複雑化は顕著で、難易度としては難化しているとの指摘もあります。それに伴い、「共通テストは基礎学力を見ているのだから、応用問題は2次試験で行うべき」という指摘が、しばしばなされるようになりました。

共通テストが基礎学力を測るためのものなのかはさておき、ここに「制度と目的」が結びつくのかという問題が顕在化します。世の中にある様々な制度には、その制度により達成したい社会の状態や理念があります。たとえば、入学試験には、学習意欲と能力が備わった受験者を選別するという目的があります。

しかし一度制度が出来上がると、その制度は理念とは関係なく制度自体としての機能を持ちます。たとえば共通テストであれば「受験生に対して全国で同じ問題を解かせ、各受験生に点数を割り当てる」という機能です。

人気の高い国公立大学に入学するのは、必然的に共通テストで高得点を取ることが出来た受験生になります。さらに、国公立大学は学費が私立大学と比較して低く抑えられているので、人気の高い国公立大学の受験を学力不足であきらめた受験生も、その次に人気のある国公立大学に志望を落とすというような、国公立大学という括りの中での志望順位の変化が起きます。そして、共通テストの点数が低いと入学できる国公立大学がほとんどないということになってしまいます。その結果、国公立大学を目指す受験生は、共通テストを無視することが出来なくなるのです。

試験には、訓練すれば訓練しなかった人よりも高得点が取れるようになるという性質があります。そして、ほかの人が訓練をする以上、自分も訓練をしないと志望大学への不合格という不利益を被ることになります。

その結果、共通試験の過去問に取り上げられた問題は、全国の国公立志望の受験生に、重要度の高い演習問題として採用されます。逆に言えば、全国の国公立志望の受験生に身につけさせたい能力を試験問題を通じて公表することで、国がわざわざ出向いて授業などで教えなくとも、受験生が勝手に勉強してくれるのです。

かくして、共通テストは、「受験生に練習させたい問題形式を練習させるための装置」になります。これは「共通テストは基礎学力を見ているのだから、応用問題は2次試験で行うべき」のような理念とは必ずしも一致しません。

もちろん、「共通テストは基礎学力を見ているのだから、応用問題は2次試験で行うべき」という理念をかなえるために国公立大学の2次試験に文科省が介入する可能性も否定はできませんが、「受験生に練習させたい問題形式を練習させるための装置」を利用しようとする可能性もあります。

理念を信じながらも、そういう使い方をされ得ると分かってびっくりしない程度の準備をしておくのが賢明なのではないでしょうか。

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