無限降下法で挑む!整数問題の徹底攻略と応用テクニック
目次
無限降下法とは何か?
無限降下法とは、17世紀にピエール・ド・フェルマーが用いた証明技法の一つで、背理法の一種です。 ある性質を持つ最小の自然数(または正の整数)が存在すると仮定し、その性質を持つより小さな自然数が存在してしまうことを示すことで矛盾を導き、仮定が誤りであることを証明します。
この方法は特に整数問題に強く、数学オリンピックなどでも頻出のテクニックです。背理法と帰納法の中間のようなイメージで使え、論理的思考力を鍛えるには最適です。
基本例題:平方数の差に関する問題
問題:
自然数 \( x, y \) に対して、次の方程式を満たす解が存在しないことを証明せよ。
解説:
この方程式に整数解があると仮定し、その中で \( x \) が最小となる解を取ります。すると、
\[ x^2 = 2y^2 + 1 \Rightarrow x^2 – 1 = 2y^2 \]左辺は奇数の平方から1を引いた偶数なので、右辺が成り立ちます。しかし、この式を少し変形して見てみましょう。
\[ (x-1)(x+1) = 2y^2 \]ここで、\( x \) が奇数であれば、\( x-1 \) と \( x+1 \) は共に偶数。つまり、左辺は4で割り切れる構造です。 さらに、左辺を素因数分解して、2つの積が2倍の平方数になっていることを利用し、さらに変形を進めます。
しかしこの式を詳しく見ていくと、元の仮定よりも小さな \( x’ \) を作れる可能性があることがわかり、無限に小さな正の整数 \( x \) を作れてしまう矛盾が生じます。
このようにして矛盾が生じたため、仮定が誤りであり、解は存在しないことが示されました。
無限降下法の使い方
無限降下法の基本的なステップは以下の通りです:
- 対象の性質を満たす「最小の正の整数」が存在すると仮定する
- その仮定のもとで、同じ性質を持つ「より小さな正の整数」を構成する
- この操作が繰り返せることを示す(つまり、無限に降下できる)
- しかし、正の整数は無限に小さくならない(最小の正の整数が存在する)ため矛盾が生じる
つまり、背理法で「そんな性質の数は存在しない」と示すのがこの方法の目的です。
応用例題:3乗数の差に関する問題
問題:
自然数 \( x, y \) に対して、次の方程式を満たす解が存在しないことを証明せよ。
解説:
\[ y^3 – x^3 = 2 \Rightarrow (y – x)(y^2 + xy + x^2) = 2 \]左辺を因数分解しました。このとき、左辺が2という非常に小さな数になっているため、各因数の組み合わせに着目します。 例えば、\( y – x = 1 \), \( y^2 + xy + x^2 = 2 \) というような組み合わせが考えられますが、後者は正の整数である \( x, y \) に対して2になることはありません。
また、すべての因数の組み合わせを調べても整数解は得られないため、この方程式は解を持たないことが分かります。ここでは因数分解によって最小の構造が否定されるため、無限降下を明示的に行わずとも論理的に類似の考え方が使われています。
別の応用例:ペル方程式との関係
問題:
次の方程式が整数解を持たないことを証明せよ。
解説:
この式はペル方程式の一種であり、解が存在するかはその特性に依存します。通常のペル方程式 \[ x^2 – Dy^2 = 1 \] と異なり、右辺が \(-1\) のときは、「負のペル方程式」と呼ばれます。これが解を持つかどうかは \( \sqrt{D} \) の連分数展開の周期の長さに関係しています。ここで、仮に解が存在するとし、最小の正の整数解 \( (x_0, y_0) \) を取ります。すると、ペル方程式の性質を利用すれば、次のようにさらに小さい解を構成できてしまう場合があります。
しかし、負のペル方程式ではこの繰り返しが成立しないケースが多く、逆に「無限降下によって解が存在しない」ことを証明する根拠として使えます。
まとめとアドバイス
無限降下法は、最小の解からさらに小さな解が作れることを示すことで、矛盾を導きます。整数問題に非常に強く、特に「存在しないことの証明」では強力です。
最後に、無限降下法を使いこなすためのアドバイスをいくつか:
- まずは仮定を置いて矛盾を導く「背理法」の考え方に慣れる
- 最小の解があると仮定し、数式操作からそれより小さな解を構成できないか検討する
- 因数分解、対称性、平方完成などの式変形を活用する
- 実際に数値を代入して、構造を視覚的に理解する
高校数学において無限降下法はやや高度な証明技術ですが、習得すれば整数問題に対して強力な武器となります。大学入試や数学オリンピックなどでも活用できる重要な技法です。