囚人のジレンマとモラルハザードを高校生向けに徹底解説!身近な例から経済学の応用まで
目次
はじめに:ゲーム理論とは?
ゲーム理論とは、複数の人が互いに影響を与えながら意思決定をする状況を分析するための数学的な枠組みです。経済学や政治学、心理学などでも広く使われています。今回は、ゲーム理論の中でも特に有名な「囚人のジレンマ」と、それと関連する「モラルハザード」について解説していきます。
囚人のジレンマとは?
囚人のジレンマ(Prisoner’s Dilemma)とは、次のような状況を指します。
2人の容疑者AとBが逮捕され、別々の部屋で取り調べを受けています。それぞれ、次の選択肢を与えられます。
- 相手を裏切って自白する(=協力しない)
- 黙秘して協力する
以下のような報酬行列(利得表)があるとします:
ここで、数字は懲役年数をマイナスにした値(=利益)です。より大きな数の方が得であるとします。
この場合、お互いが黙秘(協力)すれば合計の懲役年数は最も少なくなりますが、どちらかが裏切れば自分は得をするため、結局お互いが裏切る(自白する)選択をしやすくなります。これがジレンマです。
囚人のジレンマの具体例
例1:価格競争
2つの企業が同じ製品を売っているとします。お互いが高い価格を維持すれば利益が大きくなりますが、一方が値下げすると顧客を多く獲得できます。そこで、相手に先んじて自分も値下げしてしまう。結果として両社ともに利益が減る、という状況が生まれます。
例2:ごみのポイ捨て
公園をきれいに保つために、誰もがゴミを持ち帰れば全体にとって良い結果になります。しかし、自分だけ捨てても誰も見ていなければ楽ができます。この考えが広がると、結局みんながゴミを捨ててしまい、公園が汚くなります。
例3:試験勉強の協力
友達同士で試験のために勉強を教え合うと、全体の学力が上がります。しかし、自分は教えてもらうだけで教えない方が楽だと考える人が出ると、協力が成立せず、みんなの成績が下がってしまうかもしれません。
モラルハザードとは?
モラルハザード(moral hazard)とは、ある人が自分の行動によるリスクを他人に転嫁できるとき、危険な行動をとってしまうという現象です。これは情報の非対称性(片方だけが詳しい情報を持つ状態)があるときに起きやすくなります。
モラルハザードの具体例
例1:保険加入者
火災保険に入っている人が、「どうせ保険で補償されるから」と注意を怠って火の始末をおろそかにするかもしれません。これは保険会社が負担するリスクを、契約者が無責任に扱う典型例です。
例2:銀行と政府
大手銀行がリスクの高い投資をしても、破綻しそうになると政府が「大きすぎて潰せない」と救済するケースがあります。これが分かっていると、銀行は大胆な行動を取りやすくなります。
例3:社員と会社
ある会社の社員が、会社の経費を私的に使ってもなかなかバレない場合、個人の利益のために会社に損害を与える行動をとるかもしれません。
応用:経済学における活用
経済学では、囚人のジレンマとモラルハザードは次のような分野で応用されています。
ゲーム理論と政策設計
政策を作るとき、個人が自分勝手に行動するとどうなるか(=ナッシュ均衡)を予測し、それを避けるようにルールや罰則、インセンティブ(報酬)を設計します。
契約理論とモラルハザードの制御
モラルハザードを防ぐために、保険契約や雇用契約では、情報の非対称性を減らす努力がされています。たとえば、従業員の成果に応じて報酬を変える「出来高払い」などはその一例です。
公共財の提供
道路や公園などの公共財は、みんなが協力して税金を払わなければ成り立ちません。ここでも囚人のジレンマ的な構造が存在するため、国は税制を工夫することで協力を促しています。
まとめ
- 囚人のジレンマは、個人が合理的に行動しても集団として非効率な結果になる状況を示す。
- モラルハザードは、リスクが他者に移るときに発生する不適切な行動のこと。
- 経済学ではこれらの現象を理解することで、より良い制度設計が可能になる。
高校生の皆さんも、日常の中で「なぜうまくいかないのか?」と感じる場面にこれらの理論を当てはめて考えると、行動の背景がよく見えてきます。