ジョルダンの不等式を極める:高校数学の基礎から応用まで徹底解説!
ジョルダンの不等式(Jordan’s Inequality)は、三角関数の評価に用いられる非常に重要な不等式であり、大学受験や数学オリンピックレベルでも頻出するテーマです。本記事では、この不等式の定義から、証明方法、そして応用例題に至るまで、高校生にも理解できるように徹底的に解説します。
目次
ジョルダンの不等式とは?
ジョルダンの不等式は、0より大きく \( x < \frac{\pi}{2} \) の範囲において、次のように表されます:
\[ \frac{2}{\pi}x \leq \sin x \leq x \]
この不等式は、三角関数 \(\sin x\) を単純な線形関数で挟むことで、その大小関係を評価する強力な道具です。
特に、極限の評価や、不等式証明の補助として非常に役立ちます。
ジョルダンの不等式の証明
右側の不等式 \(\sin x \leq x\) の証明
この不等式は、テイラー展開から簡単に導出できます。
\[ \sin x = x – \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} – \cdots \]
この級数は交互級数で、\( x > 0 \) に対して減少していく項から構成されています。そのため、
\[ \sin x < x \]
が成立します。
左側の不等式 \(\frac{2}{\pi}x \leq \sin x\) の証明
左側の不等式は少し工夫が必要です。関数 \( f(x) = \frac{\sin x}{x} \) を考えると、
\[ f(x) = \frac{\sin x}{x} \]
は単調減少関数であり、\( x \in (0, \frac{\pi}{2}) \) において、
\[ f(x) \geq f\left(\frac{\pi}{2}\right) = \frac{\sin(\frac{\pi}{2})}{\frac{\pi}{2}} = \frac{2}{\pi} \]
したがって、
\[ \frac{\sin x}{x} \geq \frac{2}{\pi} \quad \Rightarrow \quad \sin x \geq \frac{2}{\pi}x \]
が成立します。
ジョルダンの不等式のグラフ的理解
関数 \(\sin x\)、\(x\)、および \(\frac{2}{\pi}x\) を同じグラフ上に描くことで、ジョルダンの不等式が視覚的に理解できます。
- \(\sin x\):曲線
- \(x\):直線(原点を通る傾き1)
- \(\frac{2}{\pi}x\):直線(傾き \(\frac{2}{\pi} \approx 0.6366\))
グラフを描くと、\(\sin x\) が \(x\) より常に下にあり、\(\frac{2}{\pi}x\) より常に上にあることがわかります。
ジョルダンの不等式の基本例題
例題1
\( 0 < x < \frac{\pi}{2} \) のとき、次の不等式を示せ:
\[ \frac{\sin x}{x} > \frac{2}{\pi} \]
解答
これはジョルダンの不等式そのものから直ちに従います。左辺は \(\frac{\sin x}{x}\)、右辺は定数 \(\frac{2}{\pi}\)。
したがって、
\[ \frac{\sin x}{x} > \frac{2}{\pi} \]
は、\( x \in (0, \frac{\pi}{2}) \) において常に成立します。
応用例題とその解説
例題2:極限評価
極限 \[ \lim_{x \to 0^+} \frac{1 – \cos x}{x^2} \] を求めよ。
解答
まず、以下の恒等式を用います:
\[ 1 – \cos x = 2\sin^2\left(\frac{x}{2}\right) \]
したがって、
\[ \frac{1 – \cos x}{x^2} = \frac{2\sin^2(\frac{x}{2})}{x^2} = \frac{2}{x^2} \cdot \sin^2\left(\frac{x}{2}\right) \]
ここで、ジョルダンの不等式から、 \[ \sin\left(\frac{x}{2}\right) \geq \frac{2}{\pi} \cdot \frac{x}{2} = \frac{x}{\pi} \] なので、
\[ \frac{2}{x^2} \cdot \left( \frac{x}{\pi} \right)^2 = \frac{2}{x^2} \cdot \frac{x^2}{\pi^2} = \frac{2}{\pi^2} \]
逆に、 \[ \sin\left(\frac{x}{2}\right) \leq \frac{x}{2} \Rightarrow \frac{2}{x^2} \cdot \left( \frac{x}{2} \right)^2 = \frac{2}{x^2} \cdot \frac{x^2}{4} = \frac{1}{2} \] したがって、 \[ \frac{2}{\pi^2} \leq \lim_{x \to 0^+} \frac{1 – \cos x}{x^2} \leq \frac{1}{2} \] より、この極限の値は \(\frac{1}{2}\) であることがわかります。
例題3:積分での評価
\( 0 < a < \frac{\pi}{2} \) に対して、次の不等式を示せ:
\[ \int_0^a \sin x \, dx \geq \int_0^a \frac{2}{\pi}x \, dx \]
解答
ジョルダンの不等式より、\(\sin x \geq \frac{2}{\pi}x\) が \(x \in [0, a]\) で成立するので、両辺を \(x\) に関して積分すれば、
\[ \int_0^a \sin x \, dx \geq \int_0^a \frac{2}{\pi}x \, dx = \frac{2}{\pi} \cdot \frac{a^2}{2} = \frac{a^2}{\pi} \]
よって、積分の不等式が証明されました。
関連する不等式との比較
ジョルダンの不等式は、次のような不等式と密接な関係があります:
- アーベルの不等式
- アーベル-タオの不等式(応用的)
- テイラー展開による評価
- \( \sin x < x < \tan x \) という不等式
特に、\( \sin x < x < \tan x \) の不等式は、ジョルダンの不等式と並んでよく使われる評価式であり、これらを組み合わせることでさらに精密な評価が可能です。
まとめと学習のポイント
- ジョルダンの不等式は、三角関数の基本的な評価として非常に重要。
- 証明には単調性やテイラー展開が有効。
- グラフでの理解も深めよう。
- 積分や極限の応用でも頻出。
- 他の不等式との組み合わせも重要。
この不等式の応用は多岐にわたります。基礎をしっかりと理解した上で、入試や発展問題にも挑戦してみてください。