逆双曲線関数とは?定義・導出・性質を解説

逆双曲線関数とは?定義・導出・性質を解説

目次

はじめに

双曲線関数は、三角関数と同様に多くの分野で利用される基本的な数学関数です。その逆関数である逆双曲線関数(逆ハイパボリック関数)は、微分積分学や物理学、統計学、経済学など、さまざまな応用分野で登場します。本記事では、逆双曲線関数の定義から導出、性質、応用例までを詳しく解説します。

双曲線関数の定義

まずは双曲線関数の基本的な定義を確認しましょう。

  • 双曲線正弦関数(sinh): \[ \sinh x = \frac{e^x – e^{-x}}{2} \]
  • 双曲線余弦関数(cosh): \[ \cosh x = \frac{e^x + e^{-x}}{2} \]
  • 双曲線正接関数(tanh): \[ \tanh x = \frac{\sinh x}{\cosh x} = \frac{e^x – e^{-x}}{e^x + e^{-x}} \]

これらの関数は、指数関数の組み合わせによって構成されており、三角関数と似たような性質を持ちながら、いくつか異なる振る舞いをします。

逆双曲線関数の定義

逆双曲線関数は、それぞれの双曲線関数に対する逆関数として定義されます。主なものは以下のとおりです。

  • 逆双曲線正弦関数(arsinh または sinh-1
  • 逆双曲線余弦関数(arcosh または cosh-1
  • 逆双曲線正接関数(artanh または tanh-1

これらは、以下のような関係を満たします:

  • \(\sinh^{-1}(x) = y \Rightarrow x = \sinh(y)\)
  • \(\cosh^{-1}(x) = y \Rightarrow x = \cosh(y)\)
  • \(\tanh^{-1}(x) = y \Rightarrow x = \tanh(y)\)

逆双曲線関数の導出

ここでは、それぞれの逆双曲線関数を導出してみましょう。

1. 逆双曲線正弦関数 \(\sinh^{-1}(x)\) の導出

\[ y = \sinh^{-1}(x) \Rightarrow x = \sinh(y) = \frac{e^y – e^{-y}}{2} \] 両辺に2をかけて: \[ 2x = e^y – e^{-y} \] 両辺に \(e^y\) をかけて: \[ 2x e^y = e^{2y} – 1 \Rightarrow e^{2y} – 2x e^y – 1 = 0 \] これは \(e^y\) に関する2次方程式: \[ (e^y)^2 – 2x e^y – 1 = 0 \Rightarrow e^y = x + \sqrt{x^2 + 1} \] よって、 \[ y = \ln(x + \sqrt{x^2 + 1}) \Rightarrow \sinh^{-1}(x) = \ln(x + \sqrt{x^2 + 1}) \]

2. 逆双曲線余弦関数 \(\cosh^{-1}(x)\) の導出

\[ y = \cosh^{-1}(x) \Rightarrow x = \cosh(y) = \frac{e^y + e^{-y}}{2} \] 両辺に2をかけて: \[ 2x = e^y + e^{-y} \] 両辺に \(e^y\) をかけて: \[ 2x e^y = e^{2y} + 1 \Rightarrow e^{2y} – 2x e^y + 1 = 0 \] これは2次方程式: \[ (e^y)^2 – 2x e^y + 1 = 0 \Rightarrow e^y = x + \sqrt{x^2 – 1} \] (定義域:\(x \geq 1\)) \[ y = \ln(x + \sqrt{x^2 – 1}) \Rightarrow \cosh^{-1}(x) = \ln(x + \sqrt{x^2 – 1}) \]

3. 逆双曲線正接関数 \(\tanh^{-1}(x)\) の導出

\[ y = \tanh^{-1}(x) \Rightarrow x = \tanh(y) = \frac{e^y – e^{-y}}{e^y + e^{-y}} \] 分子・分母ともに \(e^y\) で割ると: \[ x = \frac{1 – e^{-2y}}{1 + e^{-2y}} \Rightarrow e^{-2y} = \frac{1 – x}{1 + x} \Rightarrow -2y = \ln\left(\frac{1 – x}{1 + x}\right) \] よって、 \[ y = \frac{1}{2} \ln\left(\frac{1 + x}{1 – x}\right) \quad (|x| < 1) \Rightarrow \tanh^{-1}(x) = \frac{1}{2} \ln\left(\frac{1 + x}{1 - x}\right) \]

逆双曲線関数の性質

  • 逆双曲線正弦関数 \(\sinh^{-1}(x)\) は定義域が \(\mathbb{R}\)、奇関数
  • 逆双曲線余弦関数 \(\cosh^{-1}(x)\) は定義域が \([1, \infty)\)、偶関数ではない
  • 逆双曲線正接関数 \(\tanh^{-1}(x)\) は定義域が \((-1, 1)\)、奇関数
  • すべての逆双曲線関数は連続かつ滑らかで、微分可能

導関数

  • \(\frac{d}{dx} \sinh^{-1}(x) = \frac{1}{\sqrt{x^2 + 1}}\)
  • \(\frac{d}{dx} \cosh^{-1}(x) = \frac{1}{\sqrt{x^2 – 1}}\quad (x \geq 1)\)
  • \(\frac{d}{dx} \tanh^{-1}(x) = \frac{1}{1 – x^2}\quad (|x| < 1)\)

例題と応用

例題1:逆双曲線関数の値の計算

\[ \sinh^{-1}(1) = \ln(1 + \sqrt{2}) \approx 0.8814 \]

例題2:微分の応用

関数 \(f(x) = \sinh^{-1}(x^2)\) の導関数は: \[ f'(x) = \frac{d}{dx} \sinh^{-1}(x^2) = \frac{1}{\sqrt{(x^2)^2 + 1}} \cdot 2x = \frac{2x}{\sqrt{x^4 + 1}} \]

応用:物理学での利用

特殊相対論における速度と固有時の関係などで、\(\tanh^{-1}\) が登場します。これは「ラピディティ」と呼ばれ、速度の加算則を簡潔に表現できます。

まとめ

逆双曲線関数は、指数関数を用いた導出が可能であり、自然対数を含む美しい式が得られます。数学的な性質や微分公式も重要で、理論面でも応用面でも大変有用です。本記事で紹介した導出方法や性質、例題を通じて、逆双曲線関数についての理解が深まったことでしょう。

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