重積分の本質を理解する:定義から面積確定集合まで完全解説
目次
重積分とは何か?
重積分(じゅうせきぶん)とは、多変数関数に対する積分のことです。1変数関数に対する通常の定積分が曲線下の面積を表すのに対し、重積分はより高次元の図形(例えば2変数関数なら曲面下の体積)を扱います。
具体的には、関数 \( f(x, y) \) に対する二重積分(2次元の重積分)は、ある領域 \( D \) における関数の値を「合計」する操作に対応します。
重積分の定義と考え方
まず、関数 \( f(x, y) \) を領域 \( D \subset \mathbb{R}^2 \) 上で定義された連続関数とします。このとき、二重積分は次のように定義されます:
\[ \iint_D f(x, y) \, dx\,dy \]
この定義は、領域 \( D \) を小さな長方形に分割し、それぞれの長方形の中での関数の値に面積をかけて足し合わせ、分割を細かくしていった極限として捉えることができます。
より形式的には、次のようなリーマン和の極限として定義されます:
\[ \lim_{||P|| \to 0} \sum_{i=1}^n f(x_i^*, y_i^*) \Delta x_i \Delta y_i \]
ここで、\( P \) は領域の分割、\( (x_i^*, y_i^*) \) は各小領域内の代表点です。この極限が存在する場合に、重積分が定義されると言います。
面積確定集合とは?
重積分を定義するためには、関数の定義域である集合 \( D \) が「面積確定集合」である必要があります。これは、集合そのものの「面積」が有限であり、かつ測れるということを意味します。
より厳密には、次のような条件を満たす集合を面積確定集合と言います:
- \( D \subset \mathbb{R}^2 \) が有界である
- 境界が測度0(長さ0)である(測度論的条件)
例えば、長方形や円、三角形などはすべて面積確定集合です。これにより、重積分の定義が可能になります。
重積分の計算方法と具体例
例1:長方形領域上の重積分
関数 \( f(x, y) = x + y \) を領域 \( D = [0, 1] \times [0, 2] \) 上で積分してみましょう。
\[ \iint_D (x + y) \, dx\,dy = \int_0^2 \left( \int_0^1 (x + y) \, dx \right) dy \]
内側の積分から計算します:
\[ \int_0^1 (x + y) \, dx = \int_0^1 x\,dx + \int_0^1 y\,dx = \frac{1}{2} + y \]
次に外側を積分:
\[ \int_0^2 \left( \frac{1}{2} + y \right) dy = \frac{1}{2} \cdot 2 + \frac{1}{2} \cdot 2^2 = 1 + 2 = 3 \]
例2:三角形領域上の重積分
次に、領域 \( D \) を \( x \geq 0, y \geq 0, x + y \leq 1 \) とする三角形とし、関数 \( f(x, y) = xy \) を積分します。
\[ \iint_D xy\,dx\,dy = \int_0^1 \left( \int_0^{1 – y} x y \, dx \right) dy \]
内側の積分:
\[ \int_0^{1 – y} x y \, dx = y \int_0^{1 – y} x \, dx = y \cdot \frac{(1 – y)^2}{2} \]
外側の積分:
\[ \int_0^1 y \cdot \frac{(1 – y)^2}{2} dy = \frac{1}{2} \int_0^1 y (1 – 2y + y^2) dy \]
\[ = \frac{1}{2} \left( \int_0^1 y\,dy – 2\int_0^1 y^2\,dy + \int_0^1 y^3\,dy \right) \]
\[ = \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2} – 2\cdot\frac{1}{3} + \frac{1}{4} \right) = \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2} – \frac{2}{3} + \frac{1}{4} \right) = \frac{1}{2} \cdot \left( \frac{6 – 8 + 3}{12} \right) = \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{12} = \frac{1}{24} \]
重積分と体積・面積の関係
重積分は、関数が定数 \( f(x, y) = 1 \) の場合、単に領域の面積を求めることになります。つまり:
\[ \iint_D 1\,dx\,dy = \text{領域 } D \text{ の面積} \]
また、3変数関数 \( f(x, y, z) \) に対する三重積分は、空間領域 \( D \subset \mathbb{R}^3 \) における体積や質量の合計などを意味します。
まとめ
- 重積分は多変数関数に対する積分で、面積や体積を表す。
- 定義にはリーマン和の極限と面積確定集合の概念が必要。
- 実際の計算には領域を適切に把握し、変数ごとに積分を行う。
- 定数関数の重積分は領域の面積そのものを与える。
このように、重積分は多変数解析の基礎であり、図形的な意味を通じて深い理解が得られます。