逆行列の定義と求め方を完全解説
目次
逆行列とは?定義と基本概念
逆行列とは、ある正方行列 \( A \) に対して、以下の条件を満たす行列 \( A^{-1} \) のことを指します。
\[ A A^{-1} = A^{-1} A = I \]
ここで、\( I \) は単位行列(単位元)と呼ばれる行列で、主対角線上にすべて 1、それ以外の要素はすべて 0 である正方行列です。
つまり、逆行列とは「掛け合わせると単位行列になる行列」のことです。
逆行列が存在する条件
すべての行列に逆行列が存在するわけではありません。逆行列が存在するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 正方行列(行数と列数が等しい)であること
- 行列式(determinant)が 0 でないこと
行列式 \( \det(A) \neq 0 \) のとき、行列 \( A \) は正則行列(invertible matrix)と呼ばれ、逆行列が存在します。
逆行列の求め方
逆行列の求め方には複数の方法があります。ここでは代表的な3つの方法を紹介します。
1. 2×2行列の場合の公式
行列 \( A = \begin{bmatrix} a & b \\ c & d \end{bmatrix} \) の逆行列は以下の公式で求められます(ただし、\( ad – bc \neq 0 \)):
\[ A^{-1} = \frac{1}{ad – bc} \begin{bmatrix} d & -b \\ -c & a \end{bmatrix} \]
2. 3×3以上の行列:掃き出し法(ガウス・ジョルダン法)
行列 \( A \) の右側に単位行列 \( I \) を並べた拡大行列 \( [A | I] \) を作り、行基本変形を用いて左側を単位行列に変形します。変形後の右側が \( A^{-1} \) です。
手順:
- 拡大行列を作る: \( [A | I] \)
- 左側を単位行列にするように行基本変形を施す
- 右側が逆行列になる
3. 余因子行列と行列式を使う方法
任意の \( n \times n \) 行列について、逆行列は以下の式で表されます:
\[ A^{-1} = \frac{1}{\det(A)} \cdot \mathrm{adj}(A) \]
ここで \( \mathrm{adj}(A) \) は \( A \) の余因子行列(共役行列、または随伴行列)です。
具体例で学ぶ逆行列
例1:2×2行列
\[ A = \begin{bmatrix} 4 & 7 \\ 2 & 6 \end{bmatrix} \]
行列式は \( \det(A) = 4 \cdot 6 – 7 \cdot 2 = 24 – 14 = 10 \)。 したがって、逆行列は
\[ A^{-1} = \frac{1}{10} \begin{bmatrix} 6 & -7 \\ -2 & 4 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0.6 & -0.7 \\ -0.2 & 0.4 \end{bmatrix} \]
例2:ガウス・ジョルダン法による3×3行列の逆行列
\[ A = \begin{bmatrix} 2 & 1 & 1 \\ 1 & 3 & 2 \\ 1 & 0 & 0 \end{bmatrix} \]
拡大行列を作り、行基本変形を繰り返していくことで逆行列を得ることができます(詳細な行列変形のステップは割愛せず、別セクションで詳述も可能です)。
逆行列を求める際の注意点
- 行列式が 0 のときは逆行列が存在しない(特異行列)
- 計算ミスが多発しやすいため、慎重な計算が必要
- 整数成分の行列でも逆行列は分数になる可能性がある
- 行基本変形の際に割り算を含む操作があるため、数値の誤差に注意
まとめ
- 逆行列とは、行列を掛けたとき単位行列になる行列
- 正方行列であり、行列式が0でないときに逆行列が存在
- 2×2行列は公式、3×3以上の行列は掃き出し法や余因子行列を使って求める
- 実際に手を動かして例題を解くことが理解の近道
逆行列は線形代数において非常に重要な概念であり、連立方程式の解法や線形変換の解析に頻繁に使われます。しっかりと理解しておくことで、数学的な視野が広がります。