余因子行列と余因子展開の完全ガイド
目次
余因子と余因子行列の定義
行列の成分に対応する「余因子」とは、その成分を含まない小行列(補助行列)の行列式に符号をつけたものです。
\( n \times n \) の正方行列 \( A = [a_{ij}] \) において、成分 \( a_{ij} \) に対応する余因子 \( A_{ij} \) は次のように定義されます:
\[ A_{ij} = (-1)^{i+j} \cdot \det(M_{ij}) \]
ここで、\( M_{ij} \) は行列 \( A \) から第 \( i \) 行と第 \( j \) 列を除いた小行列(余因子小行列)です。
全ての成分について余因子を計算し、同じ位置に配置して得られる行列が「余因子行列(cofactor matrix)」です。
\[ \text{Cof}(A) = \begin{bmatrix} A_{11} & A_{12} & \cdots & A_{1n} \\ A_{21} & A_{22} & \cdots & A_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ A_{n1} & A_{n2} & \cdots & A_{nn} \end{bmatrix} \]
余因子展開とは?
行列式は「余因子展開(cofactor expansion)」によって計算できます。これは、任意の行または列を基準として、その成分と対応する余因子の積を足し合わせる方法です。
例えば、第 \( i \) 行による余因子展開は以下のようになります:
\[ \det(A) = \sum_{j=1}^{n} a_{ij} A_{ij} \]
同様に、第 \( j \) 列による展開も可能です:
\[ \det(A) = \sum_{i=1}^{n} a_{ij} A_{ij} \]
この方法は、特定の行や列にゼロが多い場合に特に有効で、計算量を大きく減らせます。
具体例で理解しよう
次に、3×3の行列を例に余因子行列と余因子展開を実際に計算してみましょう。
行列 \( A \) を以下のように定めます:
\[ A = \begin{bmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 0 & 4 & 5 \\ 1 & 0 & 6 \end{bmatrix} \]
まず、各成分の余因子を計算します。例えば、\( A_{11} \) は次のようになります:
\[ A_{11} = (-1)^{1+1} \cdot \begin{vmatrix} 4 & 5 \\ 0 & 6 \end{vmatrix} = 1 \cdot (4 \cdot 6 – 0 \cdot 5) = 24 \]
同様に他の成分の余因子をすべて計算して、余因子行列は以下のようになります:
\[ \text{Cof}(A) = \begin{bmatrix} 24 & 5 & -4 \\ -12 & 3 & 2 \\ -2 & -5 & 4 \end{bmatrix} \]
次に、たとえば第1行による余因子展開で行列式を求めてみましょう:
\[ \det(A) = 1 \cdot 24 + 2 \cdot 5 + 3 \cdot (-4) = 24 + 10 -12 = 22 \]
余因子行列の応用:逆行列との関係
余因子行列は逆行列を求める際に非常に重要な役割を果たします。正則行列(行列式がゼロでない行列) \( A \) に対して、その逆行列 \( A^{-1} \) は以下の式で与えられます:
\[ A^{-1} = \frac{1}{\det(A)} \cdot \text{adj}(A) \]
ここで、adj\( (A) \) は余因子行列の転置、すなわち「随伴行列(adjugate matrix)」です。
つまり、余因子行列を求めることで逆行列の計算が可能になります。
実際に先ほどの行列 \( A \) の場合:
- \( \det(A) = 22 \)
- 余因子行列の転置を計算:
\[ \text{adj}(A) = \begin{bmatrix} 24 & -12 & -2 \\ 5 & 3 & -5 \\ -4 & 2 & 4 \end{bmatrix} \]
よって逆行列は:
\[ A^{-1} = \frac{1}{22} \cdot \begin{bmatrix} 24 & -12 & -2 \\ 5 & 3 & -5 \\ -4 & 2 & 4 \end{bmatrix} \]
このように、余因子行列は理論的にも計算的にも非常に重要な概念です。