線形写像を行列で表す

線形写像を行列で表す

線形代数では、「線形写像」と「行列表示」が密接に関係しています。この記事では、線形写像を行列で表すとはどういうことか、具体的な例や手順を交えてわかりやすく解説します。

目次

線形写像とは?

線形写像(または線形変換)とは、ベクトル空間から別のベクトル空間への関数で、次の2つの性質を満たすものです。

  • 加法性:\( T(\mathbf{v} + \mathbf{w}) = T(\mathbf{v}) + T(\mathbf{w}) \)
  • スカラー倍との相性:\( T(c\mathbf{v}) = cT(\mathbf{v}) \)

例えば、平面上のベクトルを回転させたり、拡大・縮小する変換は、すべて線形写像の例です。

線形写像の行列表示とは?

線形写像 \( T: \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m \) をある基底に対して「行列」で表現することを、線形写像の行列表示と呼びます。つまり、ベクトル \( \mathbf{x} \) に対して、 \[ T(\mathbf{x}) = A \mathbf{x} \] のような形で表せるとき、行列 \( A \) は写像 \( T \) の行列表示です。

行列表示を求める手順

  1. まず、定義域の基底(通常は標準基底)を用意します。
  2. それぞれの基底ベクトルに対して写像 \( T \) を適用します。
  3. その結果を、終域のベクトルとして列に並べたものが、行列表示になります。

具体的には、次のような手順です。

\( T: \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2 \)、標準基底 \( \mathbf{e}_1 = \begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix}, \mathbf{e}_2 = \begin{bmatrix}0\\1\end{bmatrix} \) に対して、 \[ T(\mathbf{e}_1) = \begin{bmatrix}2\\3\end{bmatrix},\quad T(\mathbf{e}_2) = \begin{bmatrix}-1\\4\end{bmatrix} \] ならば、行列表示は \[ A = \begin{bmatrix} 2 & -1 \\ 3 & 4 \end{bmatrix} \] となります。

具体例で理解しよう

例1:回転行列

原点中心に反時計回りで角度 \( \theta \) だけ回転させる写像は線形写像であり、次の行列で表されます。 \[ A = \begin{bmatrix} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{bmatrix} \]

例2:写像の定義から行列を求める

写像 \( T(x, y) = (3x + y,\; 2y) \) を考えましょう。 \[ T\left(\begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix}\right) = \begin{bmatrix}3\\0\end{bmatrix},\quad T\left(\begin{bmatrix}0\\1\end{bmatrix}\right) = \begin{bmatrix}1\\2\end{bmatrix} \] よって、行列表示は \[ A = \begin{bmatrix}3 & 1\\ 0 & 2\end{bmatrix} \]

例3:3次元から2次元への写像

\( T(x, y, z) = (x + 2z,\; 3y – z) \) の行列表示は、 \[ T\left(\begin{bmatrix}1\\0\\0\end{bmatrix}\right) = \begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix},\quad T\left(\begin{bmatrix}0\\1\\0\end{bmatrix}\right) = \begin{bmatrix}0\\3\end{bmatrix},\quad T\left(\begin{bmatrix}0\\0\\1\end{bmatrix}\right) = \begin{bmatrix}2\\-1\end{bmatrix} \] よって、 \[ A = \begin{bmatrix}1 & 0 & 2 \\ 0 & 3 & -1\end{bmatrix} \]

基底が変わるとどうなる?

基底が変わると、線形写像の行列表現も変わります。ある基底 \( B \)、\( C \) に対して、写像 \( T: V \to W \) の行列表現を \( [T]_{C \leftarrow B} \) と書くことがあります。

特に、同じベクトル空間内での基底変換においては、変換行列 \( P \) を使って \[ [T]_B = P^{-1} [T]_C P \] のように表されることがあります(相似変換)。

まとめ

  • 線形写像は加法性とスカラー倍との相性を持つ写像です。
  • 線形写像は、基底を固定すれば行列で表すことができます。
  • 行列表示を求めるには、基底ベクトルに写像を適用して、その結果を列ベクトルとして並べます。
  • 基底が変わると、行列表現も変わるので注意が必要です。
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