【完全版】ユニタリ行列とは?定義・性質を徹底解説
目次
ユニタリ行列の定義
ユニタリ行列(unitary matrix)とは、複素数体における正方行列 \( U \) に対して、以下の条件を満たす行列のことをいいます。
\[ U^\dagger U = UU^\dagger = I \]
ここで、
- \( U^\dagger \) は \( U \) の随伴行列(共役転置行列)であり、具体的には \( U \) の転置行列に対して複素共役をとったものです。
- \( I \) は単位行列(identity matrix)です。
実数体におけるユニタリ行列は直交行列(orthogonal matrix)と一致します。
ユニタリ行列の主な性質
ユニタリ行列には以下のような重要な性質があります。
- 内積を保存する: ユニタリ行列はベクトルの内積を保ちます。すなわち、任意のベクトル \( \mathbf{x}, \mathbf{y} \) に対して \[ \langle U\mathbf{x}, U\mathbf{y} \rangle = \langle \mathbf{x}, \mathbf{y} \rangle \]
- ノルム(長さ)を保存する: よって、ベクトルの長さも保存されます。 \[ \| U\mathbf{x} \| = \| \mathbf{x} \| \]
- 固有値の絶対値はすべて1: ユニタリ行列の固有値 \( \lambda \) は複素数で、必ず \( |\lambda| = 1 \) となります。
- 逆行列が存在し、随伴行列と等しい: \[ U^{-1} = U^\dagger \]
ユニタリ行列の性質の証明
1. 内積保存の証明
ベクトル \( \mathbf{x}, \mathbf{y} \in \mathbb{C}^n \) に対して、ユニタリ行列 \( U \) が内積を保存することを示します。
\[ \langle U\mathbf{x}, U\mathbf{y} \rangle = (U\mathbf{x})^\dagger (U\mathbf{y}) = \mathbf{x}^\dagger U^\dagger U \mathbf{y} \]
ユニタリ行列の定義より \( U^\dagger U = I \) なので、
\[ \mathbf{x}^\dagger U^\dagger U \mathbf{y} = \mathbf{x}^\dagger \mathbf{y} = \langle \mathbf{x}, \mathbf{y} \rangle \]
2. 逆行列の性質の証明
\( U^\dagger U = I \) より、左から \( U^{-1} \) をかけると、明らかに \[ U^{-1} = U^\dagger \] が成り立ちます。したがって、ユニタリ行列は常に可逆であり、その逆行列は随伴行列です。
3. 固有値の絶対値が1の証明
\( U\mathbf{v} = \lambda \mathbf{v} \) とする。両辺のノルムをとると、 \[ \| U\mathbf{v} \| = \| \lambda \mathbf{v} \| = |\lambda| \cdot \|\mathbf{v}\| \]
しかしユニタリ行列はノルムを保存するため、 \[ \| U\mathbf{v} \| = \|\mathbf{v}\| \] よって、 \[ |\lambda| = 1 \]
具体例と応用
例1:2×2の基本的なユニタリ行列
\[ U = \begin{pmatrix} \cos \theta & \sin \theta \\ -\sin \theta & \cos \theta \end{pmatrix} \]
は実数体では直交行列ですが、複素数体で見るとユニタリ行列の一種と解釈できます。
例2:複素数のユニタリ行列
\[ U = \frac{1}{\sqrt{2}} \begin{pmatrix} 1 & i \\ i & 1 \end{pmatrix} \]
この行列はユニタリ行列であり、随伴行列を計算すると \[ U^\dagger = \frac{1}{\sqrt{2}} \begin{pmatrix} 1 & -i \\ -i & 1 \end{pmatrix} \] であり、確かに \( U^\dagger U = I \) が成り立ちます。
応用例:量子力学におけるユニタリ行列
ユニタリ行列は量子力学において極めて重要な役割を果たします。量子状態の時間発展は、ユニタリ行列(ユニタリ演算子)によって記述されます。状態ベクトルのノルム(確率の合計)が保存されることがその理由です。