直感でわかる!歪エルミート行列の定義と特徴を徹底解説
目次
歪エルミート行列の定義
複素数体上で定義された正方行列 \( A \) が歪エルミート行列(または反エルミート行列, anti-Hermitian matrix)であるとは、 次の条件を満たすときに言います。
\[ A^\dagger = -A \]
ここで、\( A^\dagger \) は \( A \) の共役転置(エルミート共役)を意味します。つまり、
\( A^\dagger = \overline{A}^T \)(複素共役を取って転置)。
この関係は、実数体上の反対称行列に似た性質を持ちますが、複素数を含むことでより一般化された形になっています。
エルミート行列との違い
エルミート行列(Hermitian matrix)は以下のように定義されます。
\[ A^\dagger = A \]
つまり、歪エルミート行列とはエルミート行列の“負”になっていると考えることができます。以下のように両者の違いをまとめられます。
- エルミート行列:自身の共役転置と等しい。
- 歪エルミート行列:自身の共役転置と符号が逆。
主な性質
- 対角要素は純虚数またはゼロ:
歪エルミート行列 \( A \) において、対角要素 \( a_{ii} \) は次の関係から純虚数である必要があります。 \[ a_{ii} = -\overline{a_{ii}} \Rightarrow a_{ii} + \overline{a_{ii}} = 0 \Rightarrow \text{Re}(a_{ii}) = 0 \] - 固有値はすべて純虚数またはゼロ:
歪エルミート行列の固有値は、必ず純虚数(またはゼロ)になります。これは、以下の性質から従います。 \[ A^\dagger = -A \Rightarrow A \text{ はノルム保存的(ユニタリ変換下で)} \] - スカラー倍による変換:
任意のエルミート行列 \( H \) に対して、\( iH \)(\( i \) は虚数単位)は歪エルミート行列になります。 これは次の通り確認できます。 \[ (iH)^\dagger = -iH^\dagger = -iH = -(iH) \] - 歪エルミート行列の和も歪エルミート行列:
2つの歪エルミート行列 \( A, B \) に対して、\( A + B \) もまた歪エルミート行列です。 - 任意の複素正方行列は、エルミート行列と歪エルミート行列に分解できる:
任意の複素行列 \( A \) は以下のように書けます: \[ A = \frac{1}{2}(A + A^\dagger) + \frac{1}{2}(A – A^\dagger) \] 第一項はエルミート成分、第二項は歪エルミート成分になります。
具体例
例えば、次の \( 2 \times 2 \) 行列 \( A \) を考えましょう: \[ A = \begin{pmatrix} 0 & i \\ -i & 0 \end{pmatrix} \]
このとき、 \[ A^\dagger = \begin{pmatrix} 0 & i \\ -i & 0 \end{pmatrix}^\dagger = \begin{pmatrix} 0 & i \\ -i & 0 \end{pmatrix}^*^T = \begin{pmatrix} 0 & -i \\ i & 0 \end{pmatrix} = -A \] よって、この行列は歪エルミート行列です。
別の例として、以下の行列を考えてみましょう:
\[ B = \begin{pmatrix} 0 & 2i & -i \\ -2i & 0 & 3i \\ i & -3i & 0 \end{pmatrix} \]
この行列も \( B^\dagger = -B \) を満たすため、歪エルミート行列です。
応用・利用される場面
- 量子力学: 歪エルミート行列は、無限小のユニタリ変換や時間発展演算子の微分などで登場します。ハミルトニアンがエルミートであるとき、生成する変換の接空間は歪エルミート行列になります。
- リー代数: ユニタリ群 \( U(n) \) のリー代数は歪エルミート行列全体で構成されます。群と代数の関係を理解する上で本質的な対象です。
- 信号処理や制御理論: ユニタリ行列の性質を利用する場面では、その生成に関わる歪エルミート行列の理解が不可欠です。