イデアル(環論)とは?定義・例・性質をやさしく完全解説!
このページでは、環論におけるイデアルの定義、具体例、基本的性質、そしてそれらの証明までを丁寧に解説します。初学者にも分かるように丁寧に説明しつつ、数学を深く学ぶ方にも納得いただけるよう、証明なども掲載しています。
目次
イデアルの定義
イデアル(ideal)とは、加法について閉じていて、環の元との積に関しても閉じているような部分集合のことです。次のように定義されます。
定義(左イデアル、右イデアル、両側イデアル)
環 \( R \) に対して、部分集合 \( I \subset R \) が
- 加法についてアーベル群をなす(つまり、\( a, b \in I \Rightarrow a + b \in I \)、かつ \( -a \in I \))
- \( r \in R, a \in I \Rightarrow ra \in I \):左イデアル
- \( r \in R, a \in I \Rightarrow ar \in I \):右イデアル
- 両方成り立つ場合は「両側イデアル」と呼ぶ
特に、可換環の場合、左イデアル、右イデアルの区別は不要で、単に「イデアル」と呼びます。
具体例
例1:整数環 \( \mathbb{Z} \) のイデアル
任意の整数 \( n \) に対して、
\[ n\mathbb{Z} = \{ nk \mid k \in \mathbb{Z} \} \]
は \( \mathbb{Z} \) のイデアルです。例えば、\( 3\mathbb{Z} = \{ …, -6, -3, 0, 3, 6, 9, … \} \) はイデアルです。
例2:多項式環 \( \mathbb{R}[x] \) のイデアル
例えば、\( (x^2) = \{ x^2f(x) \mid f(x) \in \mathbb{R}[x] \} \) は \( \mathbb{R}[x] \) のイデアルです。
例3:行列環 \( M_n(\mathbb{R}) \) のイデアル
行列環では、非自明な両側イデアルは一般に存在しません。ただし、左イデアルや右イデアルは定義でき、例として特定の列がゼロの行列全体などが挙げられます。
イデアルの種類
- 主イデアル: 1つの元 \( a \in R \) によって生成されるイデアル。記号では \( (a) \)。
- 素イデアル(prime ideal): \( ab \in I \Rightarrow a \in I \) または \( b \in I \) が成り立つイデアル。
- 極大イデアル(maximal ideal): 自身より大きいイデアルが環全体しか存在しないようなイデアル。
例:素イデアルと極大イデアル
- \( (2) \subset \mathbb{Z} \) は素イデアルであり、極大イデアルでもある。
- \( (4) \subset \mathbb{Z} \) はイデアルだが素でも極大でもない。
イデアルの基本的性質とその証明
命題1:イデアルの共通部分はイデアル
\( \{ I_\alpha \} \) を \( R \) のイデアルの族とすると、
\[ \bigcap_{\alpha} I_\alpha \]
もイデアルになる。
証明: 加法に閉じ、環の元との積にも閉じていることは、それぞれの \( I_\alpha \) が満たしているので、自明。
命題2:イデアルによる剰余環
\( R \) を環、\( I \) をイデアルとすると、商集合 \( R/I \) は自然に加法・乗法が定義されて環になる。
証明の概要: 加法・乗法が well-defined(定義良好)であることを確認する必要があります。これは \( a \equiv a’ \mod I \)、\( b \equiv b’ \mod I \) であれば \( ab \equiv a’b’ \mod I \) が成り立つことを示せばよい。
命題3:極大イデアルによる剰余環は体
\( M \subset R \) が極大イデアルならば、商環 \( R/M \) は体になる。
証明(概要): 極大イデアル \( M \) を含むイデアルが \( R \) 全体しかないことを利用して、任意の \( a \not\in M \) に対して、\( a \) の逆元が商環で存在することを示す。
応用と補足
イデアルの概念は、以下のような数学的理論に深く関わっています:
- 体の構成(例:有限体の構成において、極大イデアルによる剰余環を使う)
- 代数幾何学(多項式イデアルが零点集合と対応)
- ガロア理論、整数論、暗号理論
また、イデアルの操作としては、イデアルの和、積、交叉、生成イデアル、商イデアルなどがあります。これらの操作を通じて環の構造をより深く理解することができます。
補足:イデアル生成
元の集合 \( A \subset R \) に対して、それを含む最小のイデアルは \( A \) によって生成されるイデアルと呼び、
\[ (A) = \left\{ \sum_{i=1}^n r_ia_is_i \mid a_i \in A, r_i, s_i \in R \right\} \]
と表されます(両側イデアルの場合)。
以上がイデアルの定義・例・性質の包括的な解説です。