行列の特異値について【初心者向け】

行列の特異値について【初心者向け】

1. 行列の特異値とは

行列の特異値(Singular Values)は、行列の「大きさ」や「形状」に関連する重要な情報を提供する数値です。特異値分解(SVD:Singular Value Decomposition)は、任意の行列をその特異値と2つの直交行列に分解する手法で、これにより行列の解析が容易になります。

行列$A$(サイズ$m \times n$)の特異値は、次の手順で求められます:

  1. 行列$A$の転置行列$A^T$を求める。
  2. 行列$A^T A$と$A A^T$の固有値を求める。
  3. 固有値の平方根を取ることで、行列$A$の特異値が得られます。

具体的には、行列$A$の特異値は次の式で表されます:

$$ A = U \Sigma V^T $$

ここで、$U$は$m \times m$の直交行列、$\Sigma$は$m \times n$の対角行列(対角成分が特異値)、$V^T$は$n \times n$の直交行列です。

2. 行列の特異値の性質

特異値にはいくつかの重要な性質があります。

  • 非負性: 行列の特異値は常に非負の実数です。
  • 順序: 特異値は大きさで順番に並べることができます。最大の特異値は$A$の「最も重要な成分」を表します。
  • 対称性: 行列$A$と$A^T$の特異値は同じです。
  • 列ランクと特異値: 行列のランクは、ゼロでない特異値の数と一致します。

これらの性質により、特異値分解は行列の解析やデータ圧縮、次元削減などに広く使用されています。

3. 行列の特異値の計算例

次に、具体的な行列$A$を使って特異値を計算してみましょう。

行列$A$を次のように定義します:

$$ A = \begin{pmatrix} 3 & 2 \\ 4 & 1 \end{pmatrix} $$

この行列の特異値を求めるには、特異値分解を行います。$A$の転置行列$A^T$は:

$$ A^T = \begin{pmatrix} 3 & 4 \\ 2 & 1 \end{pmatrix} $$

次に、$A^T A$を計算します:

$$ A^T A = \begin{pmatrix} 3 & 4 \\ 2 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 3 & 2 \\ 4 & 1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 25 & 10 \\ 10 & 5 \end{pmatrix} $$

この行列の固有値を求め、そこから特異値を計算することができます。

4. 行列の特異値の応用

行列の特異値は、様々な分野で非常に有用です。以下に代表的な応用例を挙げます。

  • データ圧縮: 特異値分解(SVD)は画像や音声の圧縮に広く使われています。データの主要な成分を保持し、不要な部分を削減することで、効率的な圧縮が可能です。
  • 次元削減: 特異値分解を使用することで、高次元のデータを低次元に変換することができ、計算資源の節約や視覚化が容易になります。
  • 推薦システム: NetflixやAmazonなどの推薦システムでは、ユーザーとアイテムの行列に対してSVDを適用し、パターンを発見することで、ユーザーに対して適切な商品を推薦します。
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