高校生のための経済学:医療と情報の非対称性を徹底解説!
目次
情報の非対称性とは?
情報の非対称性(Asymmetric Information)とは、取引において当事者同士が持つ情報量に差がある状態を指します。特に経済学では、一方がある重要な情報を知っていて、他方がそれを知らないことで市場に問題が生じる場合を研究対象とします。
たとえば、中古車を買うとき、売り手は車の状態をよく知っていますが、買い手にはそれがわかりません。これが情報の非対称性の典型例です。
医療における情報の非対称性の例
医療の世界では、医師と患者の間に明らかな情報の差があります。医師は専門的な知識を持っていて、患者は自分の病気の正確な状態を知りません。
この情報の非対称性が原因で、次のような問題が起こることがあります。
- 医師が不必要な検査や治療を勧める
- 患者が医師の言うことを疑いなく受け入れる
- 保険会社がリスクの高い患者を特定できない
逆選択(アドバース・セレクション)
逆選択とは、「情報の非対称性が原因で、取引の前に質の悪い商品や人だけが市場に残る」現象です。
医療保険の例で考えましょう。健康な人と病気がちの人がいるとします。保険会社は誰が健康で誰が病気がちかを見分けられないため、平均的な保険料を設定します。しかし、健康な人は「高すぎる」と思って保険に入らず、病気がちな人だけが残ってしまいます。
これにより保険会社の支出が増え、さらに保険料が高くなり、ますます健康な人が抜けていくという悪循環が起こります。
このとき、保険会社が得られる期待利得(Expected Profit)は以下のように書けます:
\[ \text{Expected Profit} = p_H (\text{premium} – \text{cost}_H) + p_S (\text{premium} – \text{cost}_S) \]ここで、\( p_H \) は健康な人の割合、\( p_S \) は病気がちな人の割合、\(\text{cost}_H\)、\(\text{cost}_S\) はそれぞれの平均医療費です。
モラルハザード
モラルハザードとは、「保険に入っていることで、被保険者がリスクのある行動を取りやすくなる」ことを意味します。これは取引後に起こる情報の非対称性による問題です。
医療の場合、以下のようなモラルハザードが発生します:
- 軽い症状でもすぐ病院に行く
- 高額な治療を希望する(保険でカバーされるため)
- 健康への自己管理がおろそかになる
これにより、医療費が社会全体で増加してしまう可能性があります。
経済学的な応用と政策
医療市場での情報の非対称性を解消・緩和するために、さまざまな政策が取られています。
シグナリングとスクリーニング
情報の非対称性に対して、経済学では「シグナリング」や「スクリーニング」といった方法が使われます。
- シグナリング: 情報を持つ側(例:保険加入者)が、自分の健康状態が良いことを示す行動(例:健康診断結果の提示)をとる。
- スクリーニング: 情報を持たない側(例:保険会社)が、質問票や面接を通じて加入者のリスクを判断する。
政府の介入
情報の非対称性による市場の失敗に対応するため、政府が以下のような役割を果たします。
- 国民皆保険制度の導入
- 医療機関の認定制度
- 標準治療ガイドラインの作成
例題:逆選択が起こる条件を考えよう
次の状況で逆選択が発生するかどうかを考えてみましょう。
- 保険加入者は健康な人と不健康な人の2種類。
- 健康な人の医療費は年間2万円、不健康な人は年間10万円。
- 保険会社は区別ができず、全員に6万円の保険料を設定。
このとき、健康な人にとっては、
\[ \text{保険加入の便益} = 2万円 – 6万円 = -4万円 \]つまり、加入するインセンティブがありません。逆に、不健康な人にとっては、
\[ 10万円 – 6万円 = +4万円 \]となり、加入したくなります。よって、逆選択が発生します。
まとめ
医療市場では情報の非対称性が大きな問題となります。特に「逆選択」や「モラルハザード」は、保険制度や医療サービスの設計に深い影響を与えます。
高校生のうちからこうした現実の問題に経済学的な視点で向き合うことで、社会の仕組みをより深く理解できるようになります。
今後は、医療だけでなく教育、労働市場、金融など他の分野にも応用できるテーマですので、興味を持って学んでみてください。