費用逓減産業と自然独占の基本と応用|高校生にもわかる経済学解説
費用逓減産業とは?
「費用逓減産業(ひようていげんさんぎょう)」とは、生産量が増えるにつれて、1単位あたりの平均費用が下がっていく産業のことを指します。 つまり、規模が大きくなるほど効率が良くなり、コストが減る産業です。
これは主に「固定費用」が非常に高く、追加の生産にかかる「変動費用」が比較的低い場合に起こります。 たとえば、大きな設備投資が必要な発電所や鉄道会社などがこれに当たります。
数式で平均費用(AC: Average Cost)を表すと、 \[ AC(q) = \frac{TC(q)}{q} \] ここで、\(TC(q)\) は生産量 \(q\) に対する総費用です。 費用逓減産業では、生産量 \(q\) が増えるにつれて \(AC(q)\) が減少します。
自然独占の特徴
「自然独占」とは、市場で単一の企業が独占的に供給することが効率的である状況を指します。 特に費用逓減産業では、生産規模が大きい方がコストが低くなるため、多くの企業が競争すると無駄な重複投資やコストの増大を招きます。
自然独占の主な特徴は以下の通りです。
- 平均費用が長い範囲で逓減し続ける
- 複数企業による競争よりも一社が独占した方が社会全体のコストが低い
- 設備投資や固定費用が非常に高い
費用逓減産業が自然独占になる理由
ではなぜ費用逓減産業は自然独占になりやすいのでしょうか? これは、平均費用曲線が非常に長い範囲で下がり続けるからです。
具体的には、総費用が固定費用と変動費用の和で表されるとき、 \[ TC(q) = F + c \cdot q \] ここで、\(F\) は固定費用、\(c\) は単位当たりの変動費用、\(q\) は生産量です。 この場合、平均費用は \[ AC(q) = \frac{F}{q} + c \] と表され、\(q\) が大きくなるほど \(\frac{F}{q}\) は小さくなり、平均費用は下がり続けます。
複数企業が参入すると、それぞれの企業が固定費用を負担しなければならず、全体のコストが増えてしまいます。 したがって、1社がすべての需要を満たすほうが効率的です。
具体的な例と図解
例1:電力会社
電力産業は大規模な発電設備や送電網の整備が必要です。
これらの設備投資は非常に高額で、かつ送電網を複数の会社が別々に敷設するのは非効率です。
そのため、通常は一つの大きな電力会社が市場を支配し、これが自然独占の典型例となっています。
例2:上下水道
上下水道設備も初期投資が非常に大きく、多くの競合が同じエリアで設備を作るのは非効率です。
これも自然独占が成立しやすい業種の一つです。
図解
平均費用曲線を描くと、縦軸に平均費用、横軸に生産量を取ったグラフで、平均費用は生産量の増加とともにゆるやかに下がる形になります。
独占企業1社が大きく生産した方が、複数社が分散して生産するよりも平均費用が低くなります。
例題で理解しよう
ある産業の総費用関数が次のように与えられています。 \[ TC(q) = 100 + 10q \] ここで、固定費用は100、変動費用は1単位あたり10です。
(1) このときの平均費用\(AC(q)\)を求めてください。
解答:
\[
AC(q) = \frac{TC(q)}{q} = \frac{100 + 10q}{q} = \frac{100}{q} + 10
\]
(2) 生産量が増えるにつれて平均費用がどのように変わるか説明してください。
解答:
\(\frac{100}{q}\) の項は生産量が増えるほど小さくなるため、\(AC(q)\)は生産量が増加するにつれて10に近づき下がり続けます。
これは費用逓減の特徴を示しており、大量生産がコスト削減に有利であることを表します。
(3) この産業が複数企業に分かれた場合、平均費用はどうなりますか?
たとえば生産量を2つの企業が分け合うと、各社はそれぞれに固定費用100を負担するため、合計の社会的費用は増えます。 そのため、この産業は自然独占になりやすいと言えます。
経済学の応用と政策的な視点
自然独占は効率的な産業構造を示しますが、独占状態は価格が高くなりがちで、消費者に不利益をもたらす可能性もあります。 そこで、政府は規制を行うことが多いです。
主な政策対応例
- 価格規制:価格の上限を設定して消費者保護を行う
- 公営化:政府が直接運営し、公共性を確保する
- 独占企業の監視・監督:効率的な経営を促すための監督機関設置
また、技術革新などによって固定費用が下がったり、分散型の生産が可能になると自然独占が崩れることもあります。 こうした動きは自由競争を促進し、消費者の選択肢を広げます。
経済学では、自然独占の特性を理解することで、産業政策や規制政策の設計に役立てられています。